前回までのコラムで、老後資金の準備について、iDeCoやつみたてNISAでの運用をおすすめしてきましたが、これから投資を始める方の中には、そもそも運用で資産が本当に増えるのか、半信半疑の方も多いでしょう。

今回は、中長期の資産形成において重要な「分散投資」について、なぜ分散投資が有効なのか、そのメリットを見ていきたいと思います。

 

相場を当て続けることはできない

投資に興味を持つと、「アベノミクス相場で資産が増えた」「中国株で儲かった」「次はベトナムが良いらしい」などという声が聞こえてくるかもしれません。そんなとき、「自分も買っておけばよかった」と思ったことはありませんか?

以下の表を見てください。

(出典:モーニングスター社Webサイト「資産クラス別リターン(円換算あり)」

この表は、モーニングスター社が発表している過去10年における年次の資産クラス別リターンの一覧です。つまり、1年間でどの資産がどのくらい上がって、どのくらい下がったかの一覧表です。

この表を見ると、毎年のように相場の主役が入れ替わり、勝ち続けている資産はないことが分かります。

ただ、この表を眺めて「この年にこの資産に投資していたら儲かっていたのになぁ…」と考える方も多いでしょう。それが、つまり、「儲かる資産」を「良いところで買って」「良いところで売る」ということが、いかに難しいかもう少し具体的に考えてみましょう。

 

3人の架空の投資家の行動例

例えば、ここにAさん、Bさん、Cさんという3人の投資家がいるとします。3人がそれぞれ「新興国株式」に投資するケースを考えてみましょう。結果だけを見ると、「新興国株式」を買って2009年から2018年の10年間保有したとすると、年次の平均リターンは約12%、10年間で資産は約2.3倍となります。つまり、一つの資産に集中投資しても十分なリターンが出せていることになります。しかし、この表の始まる2009年の前年、株式市場は「100年に一度」と言われるリーマンショックに見舞われています。その状況を踏まえて、それぞれの投資行動を見ていきましょう。

Aさんの場合

日本株に投資していたAさん。リーマンショックで「100年に一度」の損失を出して資産を大きく減らしていましたが、戻り相場で損失を取り戻そうと、2009年も果敢に新興国株式に投資をすることにしました。しかし、リーマンショックの記憶が新しく、いつまた大きな下落が起こるかとおっかなびっくりで投資していましたので、少し上がったら利益確定で売ると決め、30%の利益が出たところで早々に売却しました。

Bさんの場合

同じくリーマンショックで大きく損をしていたBさんとCさん、2009年にリスク資産が軒並み上昇するのを見て、そろそろ相場も落ち着いただろうと2010年から投資を再開、一番上昇が期待できそうな新興国株式への投資を始めることにしました。ところが、2009年の83.1%に対して、2010年のリターンはわずか4.8%、そのまま2011年まで投資を続けていたところ、23.6%もの損失を被ってしまいました。ここでBさんは、損切りできないままどんどん損失が拡大してしまったリーマンショック時の教訓を生かし、早目に売却してしまうことにしました。20%の損失を出してのいわゆる「損切り」です。

Cさんの場合

一方Cさんは、売却すると損失を確定することになるので、もう相場を見るのもやめてしまいました。こちらはいわゆる「塩漬け」状態です。その後、2012年に世界的に株価が上がってきているのに気づいたCさん、久しぶりに資産状況をチェックしたところ、一時は2割近く下がっていた新興国株式が少しプラスになっているではありませんか。売らなかったおかげで損をせずに済んだ、と数%のプラスでやれやれ、と売却してしまいました。そのまま2018年まで持っていれば資産は約1.25倍に増えたのですが…。

 

3人の投資家のその後は・・・?

リーマンショック後の三者三様の投資行動パターンを見てきました。

結果的に、Aさんは+30%、Bさんは-20%、Cさんは+数%のリターンとなりました。Aさん、Bさん、Cさんは架空の人物ですが、この後この3人は投資を続けて資産を増やせそうでしょうか?Aさんは30%のリターンを出せていますが、おそらくリーマンショックで被った損失全てを取り戻せてはいないでしょう(リーマンショックにおける株式の値下がりは4割~5割に達していますし、その損失を抱えたままの新規投資で大きな額を投資できる投資家は少ないからです)。もしかすると、その後2匹目のドジョウを狙って折角の利益を失っているかもしれません。Bさん、Cさんに至ってはもう二度と投資はしないかもしれません。

 

まとめ

このように上がる資産を当て続けることはできないばかりか、一つの資産に集中投資した場合、相場の変動に一喜一憂した挙句、投資そのものをやめてしまう投資家が本当に多くいます。様々な資産に分散して投資することで、自分の投資判断を不安に思うことなく長期投資していくことができる、という点が分散投資のメリットの一つと言えるでしょう。分散投資により、本業に集中しながら資産も増やしていける賢い投資家を目指しましょう。