投資信託協会公表のデータによると、国内の投資信託残高は堅調に伸びており、2021年末時点で国内公募投資信託の残高は約164兆円となっています。

【図1】国内公募投資信託の残高推移(出所:投資信託協会統計データを基にBIG TREEにて作成)

以前、シリーズで『日本で「貯蓄から投資へ」が進まない理由』についてお伝えしましたが、いよいよ日本でも「貯蓄から投資へ」が進んできているということなのでしょうか。また、日本人の金融資産は今後どうなっていくのでしょうか。

今回は、様々なデータを検証しながら、日本の将来を占ってみたいと思います。

日本の現状分析

まずは、日本の現状を確認してみたいと思います。

投信残高の内訳

上記【図1】で示した期間は比較的株式相場も好調でしたので、運用によって増加しただけかもしれません。そこで、その増減の内訳も確認してみたのが、以下の【図2】です。

【図2】公募投資信託の純資産増減額の推移(出所:投資信託協会統計データを基にBIG TREEにて作成)

【図2】は、運用による増減は加味せず資金の増減額(設定額から解約額と償還額を控除したもの)のみを示しています。こちらを見ると、投信残高の増加は運用リターンによるものだけではなく、毎年着実に資金が流入している結果でもあることが分かります。ちなみに、2004年から2021年まで資金流入超は18年連続となっています。

日銀のETF(およびJ-REIT)購入分

しかし、ここで気になることが一つあります。それは、日銀が2010年12月からETF(およびJ-REIT)の買い入れを行っているということです。【図2】のデータにも、日銀購入分が含まれています。国内公募投資信託の残高164兆円のうち、36兆円(36,205,081,406,133円)は、日銀保有のETFが占めています。では、日銀購入分も合わせた純資産増減額を見てみましょう。

【図3】公募投資信託の純資産増減額の推移(日銀購入分データを含む)(出所:投資信託協会統計データおよび日銀公表データを基にBIG TREEにて作成)

いかがでしょうか。日銀購入分を加味すると、実は資金流出となっていた年もあったようです。しかし、直近の2021年は日銀がETF購入を減らし始めたにもかかわらず、大幅な流入超(日銀購入分を除いても約11兆円の資金流入超)となっています。このデータを見る限り、投資信託への資金流入は確実に起こっているようです。

家計金融資産全体の伸び

ただ、家計金融資産全体も伸びています。家計金融資産が2,000兆円を突破したというニュースを耳にした方も多いのではないでしょうか。

【図4】家計金融資産の推移(出所:2022年3月17日 日本銀行調査統計局「2021年第4四半期の資金循環(速報)」を基にBIG TREEにて作成)

つまり、投信残高だけではなく、家計の金融資産全体も伸びていたということです。
それでは、家計金融資産の内訳はどうなっているのでしょうか?

家計金融資産構成(日米欧の比較)

以下は、日銀が公表している日米欧の家計金融資産の内訳です。

【図5】家計の金融資産構成(出所:2021年8月20日 日本銀行調査統計局「資金循環の日米欧比較」より)

日本は欧米と比較すると相変わらず現預金の比率が高く、投信残高が伸びているとはいえ、投資信託の占める割合はわずか4.3%となっています。

確定拠出年金の普及と商品選択

次に、【図5】の中で、「保険・年金・定型保証」とされる部分について見ていきましょう。日本人は保険好きなどとも言われますが、【図5】を見て、欧米の方が保険や年金の割合が多いのかと意外に思われたかもしれません。しかし、欧米の保険・年金資産の多くは確定拠出年金(拠出した掛金を自分で選んだ商品で運用する年金)であり、その投資先には投資信託が積極的に活用されています。

近年日本でも企業型確定拠出年金(DC)個人型確定拠出年金(iDeCo)が広がりを見せていますが、資産残高はまだ年金資産全体の15%程度にとどまっています(【図6】参照)。

【図6】確定給付企業年金(DB)・確定拠出年金(DC)の資産残高の推移(出所:2020年9月30日 第15回社会保障審議会企業年金・個人年金部会参考資料1」より)

さらに、DCおよびiDeCoの運用商品の内訳も見てみましょう。

【図7】DCおよびiDeCoの商品選択状況(出所:運営管理機関連絡協議会「確定拠出年金統計資料(2021年3月末)を基にBIG TREEにて作成」(処理待機資金を除いておりますので、合計値が100%になりません。)

【図7】を見ると、商品選択の内訳はDC、iDeCoともほぼ同じで、預貯金と保険を合わせた元本保証商品の占める割合がいずれも45%程度となっています。DCやiDeCoに加入しながらもリスク資産への投資に回っていない資金が半分近くあるということです。

以前のコラムで、米国や英国では、DCの商品選択において、長期資産形成に資するリスク商品に資金が振り向けられない状況を打開するために、バランス型ファンドをデフォルト商品(自動的に選択される当初設定の商品)に指定できるようルール整備を行ったことをお伝えしました。

仮に日本でも、加入者が(拒否しない限り)自動的にバランス型ファンド等に資金を拠出するようなシステムになれば、それだけで、元本保証商品に眠っている約8.7兆円(DCとiDeCoの総額19.3兆円の45%)が投資信託市場に流入することになります。これは2017年の投資信託への資金流入額1年分に匹敵する額となり、大きなインパクトがあるでしょう。

あるいは、家計金融資産のたった1%(あるいは現預金の2%程度)が投資信託に回るだけでも20兆円という巨額の資金となります。

このように少しずつでも資産を元本保証の資産から投資へ振り向けていくことは難しいことでしょうか?

これからの「貯蓄から投資へ」はどうなる?

ここからは、こうした現状を踏まえ、今後の日本がどうなるのか考えてみたいと思います。

国民性の違い?

日本人は保守的で、欧米のように投資を好む国民性ではないといった見方もあるかもしれません。しかし、前述のように、欧米でもDCの制度設計を変更するまでは、多くの加入者が安全な商品を選んでいたことを見れば、欧米人が国民性として投資に積極的であるとは言えません。単に、DCを通じて強制的に投資に慣らされたというだけなのです。日本でも職場でDCが導入されたのを機に、投資に触れる機会を得た方は多いでしょう。日本でも今後DCを通じて投資経験を積む人が増えれば、欧米のように投資が身近なものになってくる可能性は大いにあると思います。

制度は?

欧米から数十年遅れと言われている日本の金融環境ですが、少しずつ改正が進んでいます。

身近な優遇制度である「NISA」については、つみたてNISAの期間延長や新NISAの導入が決定しています。

また、iDeCoについても、2017年に主婦や公務員に対象が拡大したのは記憶に新しいところですが、今年2022年にも、加入可能年齢・受取開始年齢が拡大し、10月には企業型確定拠出年金とiDeCoの同時加入要件の緩和も行われ、さらに多くの方がiDeCoを利用できるようになります。

デフォルト商品をリスク性資産にするといったドラスティックな変更はまだ難しい状況ですが、着実に使いやすい制度となるための改正が行われている印象です。

金融教育の違い?

日本は欧米と比べて金融教育が遅れており、金融リテラシーが低い、と以前のコラムにも書きました。

しかし、この4月から若年層の金融教育に関連して、2つの大きな変化がありました。一つは、高校の家庭科の授業で金融教育が取り入れられるようになったこと、もう一つは成人年齢が18歳に引き下げられたことです。

『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 家庭編』によると、高校家庭科で学習する内容として、以下のような記載があります。

「ア 家計の構造や生活における経済と社会との関わり,家計管理について理解すること。
イ 生涯を見通した生活における経済の管理や計画の重要性について,ライフステージや社会保障制度などと関連付けて考察すること。」

この中で基礎的な金融商品についても学ぶようです。成人年齢が18歳に引き下げられたことにより、高校卒業後すぐに「大人」として扱われてしまうわけですから、高校生の間に金融リテラシーを身に付けることは差し迫った課題になっています。

筆者の知人のお子さんが通う中高一貫の私立中学では、すでに金融教育が始まっているらしく「ドルコスト平均法」についてのレポートを書いている、という話も聞きました。

また、YouTubeやInstagramなどのソーシャルメディアを通じて手軽に金融情報を得ることもできます。ネット上には誤った情報や偏った情報もあると以前のコラムでも書きましたが、こうした問題も、学校で基礎的な知識を得ることにより、情報の取捨選択ができるようになると期待されます。

実際、20代、30代は社会に出てすぐに「老後2000万円問題」が話題になるなど危機感も強く、計画的に積立投資を行うなど合理的な投資行動を取っています。金融リテラシーは非常に高い世代であると言えるでしょう。それを考えると20年、30年先には、日本でも投資が当たり前になっているかもしれません。

まとめ

日本の投資の未来について考えてきましたが、いかがでしたか?

今回の内容をまとめると以下のようになります。

  • 投資信託の残高が増えている
  • 家計金融資産全体も増えている
  • 預貯金の比率は依然として高いまま
  • 確定拠出型年金も増えてはいるが、まだ年金全体の15%程度
  • しかも、その半分弱は預金や保険などの安全性資産に置かれている
  • 欧米でも当初は同じ現象が見られたが、制度設計により解消された
  • 欧米並みとは言えないが、日本の制度も徐々に進化している
  • 若年層を中心に金融リテラシーも向上している
  • 日本も20~30年後には欧米並みに投資が広がる可能性は十分にある

ここまでお伝えしてきたように、長期的には日本でも投資は広がっていくのではないかと思います。しかし、足元で若年層よりも資産を持っている高年齢層の資産が動くことによって、「貯蓄から投資へ」の流れはさらに加速するでしょう。また欧米に倣って日本人も投資を、と書いてきましたが、米国は格差社会であり、投資に回っている資金のほとんどは富裕層のもので、まとまった資産など持っていない貧困層も多く存在します。日本においても、情報格差によって貧富の差が拡大していく可能性があります。そうした意味でも、金融リテラシーを身に付けていくことは重要ではないでしょうか。

高齢者にハイリスクの投資を勧めるものではありませんが、人生100年時代、長期投資を始められる年齢は広がってきています。若年層に負けず、正しい知識を身に付け、投資を身近なものとしていただけたらと思います。本コラムがその一助となれば幸いです。

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