STO(Security Token Offering)をご存じでしょうか。

まだご存じない方も多いかもしれませんが、実は海外ではすでに市場が拡大しており、国内でも急速に増えてきている資金調達手段です。

調べてみると、ネット上にはSTOの仕組みや特徴について詳しく書いている記事をたくさん見つけることができます。STOの仕組みは分かったけれど、誰が何のために買うの?という疑問を抱いている方もおられるかもしれません。そこで、本コラムでは、少し視点を変えてSTOに投資を行うのはどのような投資家なのか、STOに投資するとはどのようなことなのか、イメージをつかんでいただくという視点で解説していきたいと思います。STO投資を具体的に検討されている方、また、どのような投資商品なのか知っておきたい、という方のご参考にしていただければと思います。

STOとは?

STOとは、セキュリティトークン(Security Token=デジタル化された有価証券)を活用した資金調達手段のことです。セキュリティトークンは「デジタル証券」と呼ばれることもありますが、本コラムでは「ST」と表記します。STの基礎知識についての詳細はここでは割愛しますが、簡単にそのメリットをまとめると以下のようになります。

  • ブロックチェーン技術により高い安全性が確保されている
  • 金融商品取引法による規制が適用される
  • 有価証券や不動産などの裏付け資産がある
  • いつでも取引できる(24時間365日取引可能)
  • 約定や受け渡しが早い
  • 小口化が可能

※STOの基礎知識についてはこちら
SBI証券HP「基礎から学ぶSTO~仕組みと魅力」

IPOとの違い

株式投資家の皆さんに馴染みのある資金調達手段といえば、株式市場への上場を通じて資金調達を行うIPO(Initial Public Offering)でしょう。では、STOでもIPOのように購入後の値上がりを期待した(投機的な)投資が行われているのかというと、今のところそうではないようです。

なぜなら、現状国内で発行されているSTの裏付け資産は債券や不動産が中心で、株式を裏付けとする事例が見られないからです。また、自由にSTを売買できる流通市場も整備が進んでいないため、現在STO投資に参加している投資家は、利回り(インカムゲイン)狙い応援投資の要素が強いようです。今後、未公開株式等を裏付けとするSTの売買が活発になれば、IPOのような値上がり益狙いの投資も過熱してくるかもしれません。

REITとの違い

不動産を裏付けとするSTは、物流施設や集合住宅(マンション)など、ある特定の不動産を投資対象とするものが発行されています。個人が行う不動産投資の対象は、実物不動産REIT(上場不動産投資信託)などがありますが、STはちょうどその中間のような位置付けと言えます。例外もあるかと思いますが、それぞれの投資のイメージをまとめたのが以下の図1です。


【図1】不動産への投資方法別イメージ(出所:BIG TREE作成)

個人で不動産投資をしようと思うと、まとまった資金が必要なため、基本的には一つの物件(アパートやマンションの一室など)に集中投資することになります。超低金利下で不動産投資に挑戦する投資家は多いですが、プロでもない個人投資家が優良物件を購入できることはなかなかなく、本当に成功している人は少ないのが現実ではないでしょうか。一方で、REITに投資すれば小口資金で優良物件に分散投資を行うことができますが、投資対象となる物件が多過ぎるため、実物不動産に投資しているという実感は薄いでしょう。またREITは上場していることから、短期的に株式市場の変動の影響を受けやすくなってしまう点もデメリットと言えます。STであれば、個人で不動産に投資するよりは優良な物件に小口で投資しながらも、投資対象が明確なため、実物不動産への投資に近い感覚で投資できます。

ここで、不動産STOの実例を見てみましょう。

実例①ケネディクス・リアルティ・トークン渋谷神南(譲渡制限付)

https://www.kdx-sto.com/fund_001/index.html
こちらは、不動産アセットマネジメント会社であるケネディクスが行った日本初の不動産STOです。渋谷区神南エリアにある全37戸からなる好立地マンションを裏付け資産としており、一口当たり投資金額が100万円(2口以上)、予想配当利回りが3.5%(年率・税引前)という条件で募集が行われました。発行総額を大きく上回る申し込みがあり、日本初の不動産STOとして上々の滑り出しを見せました。

実例②神戸六甲アイランドDC(譲渡制限付)

https://ir.alterna-x.com/ir001/
2021年12月に運用を開始した不動産STOです。投資対象は、神戸六甲アイランドにある物流センターで、大手外食チェーンと15年間の定期賃貸借契約を結んでいるという安定的な稼働率が期待できる物件です。個人ではなかなか投資機会のない物流施設への投資が実現できる案件となっています。当初の一口当たり投資金額が503千円、予想配当利回りが3.20%(年率・税引前)となっています。

上記事例をはじめ、次々にSTOが行われていく中で、二期目の運用に入る物件も出てきています。そうした物件では、決算報告や毎月のレポート、分配金の状況などが開示されているため、これからSTO投資をしてみたい投資家にとっては、投資後のイメージを持ちやすく、安心材料となることでしょう。このような実績が増えていけば、ますます不動産STOの普及に弾みがつきそうです。

債券投資との違い

不動産と並んでSTの主要な投資対象となっているのが債券です。企業が発行する債券を裏付けとするSTは、デジタル社債などとも呼ばれますが、こうしたデジタル社債の特徴としては、不動産よりもさらに小口化が進んでいること、利息の一部をポイントで支払ったり、おまけをつけたりするなど自由な形で起債し、魅力的な発行条件でマーケティングにも活用している事例が多くみられること等が挙げられます。実例を見てみましょう。

実例①スパークス華咲く(8739)未来ST債

https://www.nomuraholdings.com/jp/news/nr/nsc/20220531/20220531.pdf
本デジタル社債は、2022年6月に投信投資顧問会社であるスパークスが発行し、LINE証券が販売を行いました。発行条件は、期間1年、利率2.5%(税引前)と、発行体(スパークス)の格付け(BBB+)を考慮しても、好条件でした。また、スパークスが運用する投資信託を対象期間中に購入した投資家向けにキャンペーンを行うなど、単なる資金調達ではなく、発行企業のファンを作るマーケティングにも活用されています。最低投資金額も5万円と従来の債券より小口化されており、より多くの投資家が購入しやすいようになっています。

実例②マルイグループ・エポスカード会員向けデジタル社債

https://www.0101maruigroup.co.jp/pdf/settlement/22_0620/22_0620_1.pdf
2022年6月に、マルイグループがエポスカード会員向けに自社で発行したデジタル社債です。条件は、期間1年、利率1%(金銭0.3%、エポスポイント0.7%)と、利息の多くがポイントで支払われるというものでしたが、1億円の募集に対し約20倍の申し込みが殺到したほどの人気でした。投資単位はなんと1口1万円からと小口での投資が可能で、調達した資金は発展途上国のファイナンス支援に使うということで、ESG投資の側面もあり、人気化したのもうなずけます。

このように、デジタル技術を活用することにより、従来は不可能だった小口での販売やポイントでの利息の付与など柔軟な発行が可能となり、今後ますますオリジナリティあふれるデジタル社債が発行されることも期待されます。また、証券会社が販売を行う場合は、その証券会社に口座を開かないと買えないため、発行する企業だけでなく、販売を行う証券会社にとっても他社との差別化ができ、新規顧客を取り込むこともできる重要なツールと言えます。魅力的な商品を開発することで、投資家・発行会社・販売会社の「三方よし」となることも大いに期待できます。

今後への期待

魅力的な商品の登場とともに、今後期待されるのは

  • 流通市場の整備
  • 投資対象資産の広がり

でしょう。

流通市場の整備については、2021年4月に国内初のSTの取引市場運営を目指す大阪デジタルエクスチェンジ株式会社が設立され、2023年を目途にSTの取り扱い開始を目指しています。このような流れから流通市場が整備され、売買がしやすくなれば、ますますSTO市場は盛り上がって行くでしょう。

また、不動産や債券以外にも、美術品やプロジェクトを投資対象としたSTなども広がっていく可能性があると言われています。

まとめ

STOへの投資についてみてきましたが、いかがでしたか?デジタル技術を活用した投資、というと難しく感じますが、意外と身近な案件も多かったのではないでしょうか?

ここまでのところ、国内のSTO案件は各発行企業や証券会社で散発的に発売されることが多く、すぐに売り切れてしまうこともあるため、買いたくても間に合わないというケースも出てきています。STO投資に興味がある方は、新たな情報にアンテナを立て、発行情報をキャッチしたらすぐに投資判断を行えるよう事前によく研究して備えておくことも大切です。今後のSTO市場の広がりから目が離せません。

弊社へのお問い合わせはこちら
→STOについて情報が出たら教えてほしいという方もこちらよりお知らせください!

☆☆各種セミナー好評開催中。詳しくはこちら☆☆