日本で「貯蓄から投資へ」が進まない理由を探るシリーズ、第2回目の今回は、日本のこれまでの相場環境について見ていきたいと思います。


目次
【第1回】日本では「貯蓄から投資へ」が進んでいない
– データで見る現状・海外との比較
– 「貯蓄から投資へ」が進んでいない理由は3つ
【第2回】理由1:相場環境が悪く、成功体験を積んでいない
– 日米株価比較
– 今後取るべき戦略①国際分散投資
– 今後取るべき戦略②市場に応じた投資戦略
【第3回】理由2:制度が遅れている
– 海外との制度比較
– 米国(401(k)プランとIRA)
– 英国(NESTとISA)
– 海外事情から占う日本の未来
【第4回】理由3:金融リテラシーが低い
– 投信人気ランキング:リスクを理解していますか?
– 金融リテラシーの低さと金融業界
– 投資教育の現状
まとめ:これからの展望


理由1:相場環境が悪く、成功体験を積んでいない

日本で「貯蓄から投資へ」が進まなかった理由の一つは、これまでの日本の株式相場の影響もあると思われます。

日米株価比較

ここで、1985年以降の日米の株価推移を比較してみましょう。

【図1】1985年1月から2020年9月までの日米株価比較(1985年を1として日経平均株価とS&P500指数を比較。)出所:BIG TREEにて作成

これは、1985年から2020年までの日経平均株価と、米国S&P500指数を比較したチャートです。これを見れば、この30年ほど、日本人がどんなに頑張って長期投資をしてきたとしても、米国にかなわないことは一目瞭然です。
そもそも、「ホームバイアス」と言って、資産運用をする際に自国の資産を多く持ってしまう傾向がありますので、通常米国人は米国株に多く投資し、日本人は日本株に多く投資を行っています。結果として、この30年超、米国株に投資した米国人は「株を保有していたら資産が増えた」という成功体験を重ねてきており、他方、日本人は「株を持っていたら損をした」という挫折ばかりを味わってきたわけです。これでは、資産が増えないばかりか、「株式とは損をするもの」という認識が繰り返し植え付けられ、将来にわたって「株を持つのはやめよう」という気持ちになって当然です。
さらに、ずっと定期預金などの安全性資産に資金を置いていた場合と比較してみます。

【図2】定期預金金利の推移 出所:日銀の統計データ表「預金種類別店頭表示金利の平均年利率等」をもとにBIG TREEにて作成

1991年頃から金利は下降の一途を辿ってはいますが、郵便局の定額貯金など10年間固定金利の商品を持っていたとすると、1990年頃の金利で2000年頃まで安全に資産を置いていた方もいるはずです。仮に1990年頃から5%の金利で10年間郵便局の定額貯金(半年複利)で100万円運用したとすると、10年後には約164万円になります。一方、日経平均は1989年末のピークから2000年頃には(時期にもよりますが)ほぼ半値以下になっていますので、100万円投資していたとすると50万円になっていたでしょう。
このような経緯から、預貯金で安全に運用する人が賢く、欲を出して株式に投資する人は愚か、というイメージが日本人の中に醸成され、今日まで株式投資のイメージを悪くしているのではないでしょうか。

今後の展望と対策

しかし、【図2】に見られるように、低金利時代が長く続いており、預貯金では資産が増えないという事実に日本人も気づき始めています。そうなると、いよいよリスクを取った投資を始める必要に迫られているわけですが、同じ失敗を繰り返さないためには、どうすればよいのでしょうか?

対策①投資先を分散する

一つの対策としては「国際分散投資」です。投資先が日本株に偏っていた上に、その日本株がほとんど上がらなかったことが資産が増えなかった原因なので、投資先を広げることがまず簡単にできる対策と言えます。実際のところ、30年前に国際分散投資を行うのは難しかったかもしれませんが、現在は投資信託等を通じて海外の資産に手軽かつ低コストで分散投資することができます。そもそも国際分散投資をしやすい環境が整っていなかったことも資産運用がうまく行かなかった理由と言えるかもしれません。

対策②市場に応じた戦略を取る

もう一つの対策は、市場に応じて戦略を分けることです。
つまり、上がっていく市場と上がっていかない市場、それぞれに適した戦略があるということです。
つみたてNISAやiDeCo(個人型確定拠出年金)を通じて「長期・積立・分散」投資が推し進められていますが、長期・積立・分散投資が最大限効果を発揮するのは市場が「上がったり下がったりしながらも長期的には上昇していく」という動きをする場合です。バブル崩壊後の日本株のような市場に長期・積立・分散投資を行っても(長期でプラスにはなってくるでしょうが)非常に効率は悪かったでしょう。

そういった「ハズレ」の市場だけに投資しないための「国際分散投資」ですので、まずはそこから始めるというのが基本なのですが、投資経験やリテラシーが上がってきたら、中・上級編として市場見通しに応じた戦略を取る方法もあります。たとえば、長期で成長が見込める市場に対しては、王道の「長期・積立・分散投資」を行い、そうではない市場に対しては、異なるアプローチで市場平均プラスαのリターンを狙う運用をして行くということです。
弊社としての見通しや戦略などについて、無料オンラインセミナーでもお話しておりますので、ぜひご視聴ださい。

まとめ

日本で「貯蓄から投資へ」が進まない理由の一つ目は、ここ数十年の日本の株式相場の低迷にありました。本文にも書きましたが、コツコツ貯金するのが賢く、投資は愚か者のする博打、というイメージをどこかに持っていないでしょうか?それが、私たちが投資をするときの大きな足かせになっている可能性があります。ただし、物心ついたときからアベノミクスの上昇相場を見てきた若い人達は、そのようなイメージを持っていないでしょう。「貯蓄から投資へ」は若い世代から広がっていくかもしれません。

次回は、「貯蓄から投資へ」が進まない理由を制度面から見ていきたいと思います。

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