金融機関が公表している共通KPIに注目

2018年6月に金融庁から「投資信託の販売会社における比較可能な共通KPIについて」という文書がリリースされました。

これを受けて金融機関各社が「共通KPI」を公表していることをご存知でしょうか?

この「共通KPI」は、一見どこも同じに見える投資信託の販売会社を比較し、「どこで資産を運用するか」を考える上でとても重要な指標になるかもしれませんので、本コラムで解説していきたいと思います。

 

そもそも「KPI」とは?

まず、「KPI」という用語について説明します。

KPIとはKey Performance Indicatorの頭文字をとったもので、「重要業績評価指標」などと訳されます。

これと似た用語で「KGI(Key Goal Indicator:重要目標達成指標)」というものがあり、いずれも目標の達成度合いを評価するための指標ですが、KGIが最終目標の達成度合いを評価するものであるのに対し、KPIは最終目標達成のための中間目標のような指標になります。

KGIは1年~5年の長期的目標として設定されることが多いのに対し、KPIは短期的な目標として設定されることが多くなります。例えば、営業などでKGIが売上アップや成約数などの最終目標であるとします。いきなりこのような最終目標を掲げても、すぐには達成できません。そこで、中間目標であるKPIとして訪問件数や見込み客の成約率などの目標を設定し、短期的にはKPIの達成度を高めていくことで、最終的にKGI達成を目指していくわけです。このKPIを適切に設定することによって最終目標を達成しやすくなると言われています。

 

「共通KPI」公表の経緯

次に「共通KPI」が公表された経緯について見ていきます。

金融庁は国民の資産形成を促すために様々な施策を行っており(NISAやiDeCoなどにおける税制優遇もその一例)、同時に、金融商品を販売する金融機関に対しても、投資家の利益を守るために「顧客本位の業務運営」を求めています。つまり、販売者側の都合からではなく、真に顧客のためになる提案・営業等をするように、ということです。

それを「顧客本位の業務運営に関する原則」という形で2017年3月に公表し、これに応じて各金融機関も同原則を採択の上、取組方針を策定・公表してきました(HPなどで「顧客本位の業務運営に関する取り組み」「フィデュ―シャリーデューティー宣言」などの項目で見ることができます。)。

この「取組方針」も金融機関によって千差万別なのですが、中には取組方針に加え、顧客本位の業務運営を客観的に評価できるようにするための成果指標(「自主的なKPI」)を設定し、その数値を公表している金融機関もありました。

以下の表は「自主的なKPI」の上位20指標を示したものです。

(出典:金融庁『各金融事業者が公表した「顧客本位の業務運営」に関する取組方針・KPIの傾向分析』

各社とも「顧客本位の業務運営に関する原則」の達成度を測るために工夫を凝らしたKPIを設定していることが分かります。それでも、これらの指標は各金融機関がそれぞれ独自に公表しているもので、算出方法もまちまちなので、比較するのは困難でした。そこで、より比較しやすくするために、算出方法なども統一した「共通KPI」が設定されることになったのです。

 

「共通KPI」とは?

それでは、いよいよ「共通KPI」について見ていきます。

金融庁から「共通KPI」として示されている指標が次の3つです。

・ 運用損益別顧客比率

・ 投資信託預り残高上位20銘柄のコスト・リターン

・ 投資信託預り残高上位20銘柄のリスク・リターン

「運用損益別顧客比率」は、対象顧客(基準日時点に投資信託及びファンドラップを保有している個人の顧客)を100%とし、それぞれの運用損益(8段階に区分)に該当する顧客数比率をグラフで可視化するもので、これを見ると、たとえば「0%~10%の利益を出している顧客が全体の〇%いる」「30%~10%損失を出している顧客は全体の〇%いる」ということが分かります。

また、「投資信託預り残高上位20銘柄のコスト・リターン」「投資信託預り残高上位20銘柄のリスク・リターン」は、負担しているコストやリスクに対してどれだけのリターンが出ているかを投資信託預り残高上位20銘柄について分析するものです。これにより、リスクやコストに見合ったリターンが出ているのかなどが分かります。

↓詳しい定義はこちらをご覧ください。↓
金融庁『投資信託の販売会社における比較可能な共通KPIの定義』

基準日時点までに全部売却・償還された銘柄は含まれないことや、対象が投資信託およびファンドラップのみで株や債券は含まれないことなど、算出方法については、まだまだ議論の余地があるようですが、統一的なルールで算出された数値で比較できるのは、投資家にとっては分かりやすくなると言えるでしょう。

ただし、金融庁は公表を義務付けたものではなく「投資信託の販売会社が、これらの指標に関する自社の数値を積極的に公表することを期待する。」としています。

つまり、「共通KPI」の公表は、あくまでも任意ということになります。

これを受けて発表された各社の「共通KPI」については、次回コラムで詳しく見ていきたいと思います。

 

まとめ

KPIの一般的な意味と、「共通KPI」公表までの動きを見てきました。

  • 2017年3月、金融庁が「顧客本位の業務運営に関する原則」を公表
  • これに応じて金融機関が取組方針を公表
  • なかには自主的にKPIを定めて公表する金融機関も
  • これを受けて、2018年6月、金融庁が「共通KPI」を公表し、投信の販売会社が数値を公表することを期待している