金融機関が公表している共通KPIに注目

前回「金融機関が公表している共通KPIに注目(1)」のコラムでお伝えした通り、金融庁の文書による呼びかけを受けて「共通KPI」が金融機関各社から発表されました。

2018年9月末までに公表されたデータを集計して、金融庁が2018年11月7日付けで『各金融事業者が公表した「顧客本位の業務運営」に関する取組方針・KPIの傾向分析』を発表していますので、これに沿って、公表された「共通KPI」を分析していきたいと思います。

共通KPIを公表した金融機関は39社!

まず、共通KPIを公表した金融機関は、39社でした。
取組方針や自主的なKPIを発表している金融機関と合わせた内訳は次の通りです。
共通KPI公表機関
金融庁報道資料より抜粋)

共通KPIを発表している業種としては、銀行・地銀等が19行、協同組織金融機関等(主に信用金庫など)が2行、金融商品取引業者等(主に証券会社など)が18社となっています。

取組方針を公表した金融機関1,488社と比較すると少ない印象はありますが、金融庁の文書にもあるようにKPIを算出するには「当該数値を把握するためのシステム対応」なども必要になりますので、すぐには算出できない事業者も少なくないと推測できます。一方で、算出できる場合でも、「数値が序列化されることを嫌がり、実務的には公表することができるのに、あえて公表していない金融機関もあるようだ」(『ファンド情報No.288』(2018年12月24日発行)の巻頭言より)との見方もあり、「こうした理由で公表しない金融機関の方が、公表数値が下位のところよりも、顧客本位の取り組みが弱いと感じるがどうだろうか」(同)との問題提起もされていることから、数値の良し悪し以前に、まずは共通KPIの公表に至った39社については、積極的に情報開示をするという姿勢が見られます。

 

公表された共通KPIの内容

では、いよいよ公表された「共通KPI」を見ていきましょう。

 

「運用損益別顧客比率」について

まず、一つ目の指標である「運用損益別顧客比率」について詳しく見ていきます。

運用損益別顧客比率
(出典:金融庁『各金融事業者が公表した「顧客本位の業務運営」に関する取組方針・KPIの傾向分析』)

左のグラフは、運用損益別顧客比率、つまりどれくらいの損益がどれくらいの割合の顧客に出ているかを見るものです。現在保有している投信(またはファンドラップ)の損益がマイナスとなっている(損失が出ている)顧客が全体の4割いることが分かります。

右のグラフは、各販売会社について、同損益がプラスになっている(利益が出ている)顧客の割合を見るものです。3割台に留まる販売会社もあれば、9割台の販売会社も見られ、「直販を行っている独立系の投信会社において、当該顧客割合が高い」と分析されています。「直販を行っている独立系の投信会社」というのはグラフではオレンジ色で表されている「投資運用業者」を指しています。

では、具体的にこの「独立系の投信会社」とはどこでしょうか?

金融庁は、全体の統計だけではなく、各社の数字も公表し、比較しています。
個社ごとの運用損益別顧客比率
(出典:金融庁『各金融事業者が公表した「顧客本位の業務運営」に関する取組方針・KPIの傾向分析』)

上の図を見ると、投資運用業者であるコモンズ投信、レオス・キャピタルワークス(「ひふみ投信」を運用している会社です)、セゾン投信が上位3位を独占しています。
このデータをもって「運用は独立系の投信会社で」と結論づけてしまいたくなるところですが、もう少し別の要因も見てみましょう。
まず、この3社が取り扱う投信は1~2本に限定され、日本または国内外の株式を中心に運用されています(セゾン投信の「セゾンバンガードグローバルバランスファンド」は除く)。そして、設定されたのはいずれも2007年以降で、運用期間も10年前後です(コモンズ投信のコモンズ2020は2013年に新しく設定されたため運用期間はさらに短い)。この間、世界および国内の株式指数は概ね順調に推移しており、比較的良い相場環境だったと言えます。

一方で、長い投信販売の歴史を持つ販売会社の資産の中には過去に損失を出したまま塩漬けになった投信の残高は含まれるのに、利益を出して全額売却してしまった資産については対象としないといったデータ算出上の事情もあり、過去の悪い相場環境時の「負の遺産」がないことが、これらの投資運用業者にやや有利に働いた可能性もあります。

とはいえ、これら運用会社の商品に同期間の日経平均を大きくアウトパフォームしているファンドもありますので、この成績が相場環境のみによるもの、というわけではもちろんないでしょう。

また、ファンドの運用成績以外に、運用損益0以上の顧客割合が高い要因と思われるものがあるのですが、これについては、次回コラムで見ていきたいと思います。

 

まとめ

  •  共通KPIを公表した金融機関は39社でした
  •  運用損益別顧客比率を見ると、投信またはファンドラップの損益がマイナスの顧客は全体の4割
  •  独立系の投信運用会社において、運用損益0以上の顧客割合が高くなっていました
  •  データ算出方法についてはまだまだ議論の余地がありそうです