前回コラムで、公表された「共通KPI」のうち、一つ目の指標である「運用損益別顧客比率」について見てきました。引き続き、『各金融事業者が公表した「顧客本位の業務運営」に関する取組方針・KPIの傾向分析』に沿って、「共通KPI」を見ていきたいと思います。
公表された共通KPIの内容(つづき)
投資信託預り残高上位20銘柄のコスト・リターンおよび同リスク・リターン
次に、あと二つの指標である投資信託預り残高上位20銘柄のコスト・リターンおよび同リスク・リターンについて、金融庁は以下のようにまとめています。
各販売会社の投資信託預り残高上位20銘柄のうち設定後5年以上の投資信託について、コスト・リターンを検証したところ、概ね、コストの上昇に伴いリターンが低下する傾向が見られており、コストに見合ったリターンは必ずしも実現していない。
リスク・リターンは、リスクの上昇に伴いリターンも一定程度上昇する傾向が見られたが、シャープレシオ(リターン/リスク)で見ると、1.6台の販売会社がある一方で、0.2台に留まる販売会社もある。
⇒リスクを取れば取るほど、リターンも上がる傾向にあるが、その効率にはバラツキがあるということ
業態別に見ると、銀行よりも証券会社や(直販を行っている)投信会社の方が、数値のブレ幅が大きい。
⇒下の図を見ると、赤い丸で示された銀行のリスク・リターン値よりも、証券会社や投信会社のリスク・リターン値の方が点線で示された回帰直線からのブレ幅が大きいのが分かります。高いリターンに目が行きがちですが、高いリスクを取ることは相場環境次第では逆方向へ大きく振れる可能性にも繋がりますので、ここではリターンの高さだけを比べるのではなく、投資家の適性に合ったリスクを取るための参考にするような見方が必要です。
(出典:金融庁『各金融事業者が公表した「顧客本位の業務運営」に関する取組方針・KPIの傾向分析』)
金融庁総括~積立投資の効果
金融庁は、共通KPIについての総括において
個別に見ると、直販を行っている独立系の運用会社において、運用損益率が0以上の顧客割合や取扱商品のシャープレシオが高い。(注)シャープレシオが高くなるにつれ、運用損益率が0以上の顧客割合が高くなる傾向。
とした上で、
直販を行っている独立系の運用会社は、積立投資を行っている顧客割合が高く、運用効率の良い商品を積立形式で提供することにより、より多くの顧客にリターンを提供していることが窺われる。”(太字・下線も金融庁によるもの)
とし、独立系運用会社の運用損益0以上の顧客割合の高さの要因を「運用効率の良さ」に加え「積立投資の効果」であることを示唆しています。
実際に、積立投資を推進している販売会社の中には、運用期間別の損益等を公表している会社もあり、これらを見ると、運用期間が長いほど、損益がプラスになっている顧客が多いことが分かります。
IFAの動向は?
残念ながら、今回共通KPIを公表した39社の中にIFA法人は入っていなかったのですが、「ファンド情報No.288」(2018年12月24日発行)の巻頭言において、「IFAでも顧客向けに、共通KPIを公表する動きがみられており、各社の運用損益率がゼロ%以上の顧客割合は7割台~9割台と高い数値となっている。」という記述があり、2018年9月末時点での集計には間に合わなかったものの、IFA法人においても共通KPI公表の動きが今後広がってくることが予想されます。2018年12月末までの集計結果については、1月中に発表される予定とのことですので、こちらの報告も引き続き注目していきたいと思います。
まとめ
今回の発表では、独立系の投信会社の成績が良かったわけですが、その要因の一つに「積立投資」があるようです。また、共通KPIの枠を超えて、長期にわたって積み立てることがより効果的であることを示す結果も出てきています。あらためて、つみたてNISAやiDeCoなどを活用した長期積立投資について考えてみるのも良さそうです。
共通KPIの公表はまだ始まったばかりであり、今回公表された数値だけを見て優劣を判断するのではなく、継続的に推移を見ていくことが大切です(共通KPIについては、毎年3月末を基準日として年次で更新していくものとされています)。また、数値以外の取組方針の策定やその見直しの度合いなどにも各社の姿勢が表れていますので、ぜひ注目してみましょう。
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