株式や債券以外の投資先として「オルタナティブ資産」への投資(オルタナティブ投資)が注目されています。今回は、個人投資家にも取り入れやすくなってきたオルタナティブ投資について、注目される背景やどんな投資先があるのか、個人で取り入れる方法等を見ていきたいと思います。

オルタナティブ投資とは

資産運用において基本的な投資対象は株式債券です。これらを「伝統的資産」と言います。これに対し、伝統的資産以外の資産を伝統的資産に代わる資産という意味で「オルタナティブ資産」(又は「代替資産」)、オルタナティブ資産への投資を「オルタナティブ投資」といいます。

オルタナティブ投資が求められる背景

なぜ今オルタナティブ投資が求められているのでしょうか?分散投資の基本は、株式と債券への投資です。かつてはリスク資産である株式安定資産である債券の比率を調整することでポートフォリオのリスクを調整してきました。そのような時代のオルタナティブ投資は、さらにリスクを取って、より大きなリターンを求める投資法であったかもしれません。

しかし、現在は歴史的な低金利を背景に、安定的な運用をしようと債券の比率を増やしていくと、ほとんどリターンが取れないという投資環境になってしまいました。さらに、現在の金利水準で多く債券に投資していると、今後金利が上昇してきた時に(債券価格が下落するため)大きな損失を被る可能性もあります。そこで安定運用を志向する投資家にとってもオルタナティブ投資が必要になってきているわけです。

オルタナティブ投資でリスクを抑えるしくみ

前述の通り、高いリターンを求める目的でオルタナティブ投資を行うケースもありますが、分散効果を高めてポートフォリオ全体のリスク(振れ幅)を抑える目的で活用される方が現在は一般的かもしれません。以下の図は、分散効果のイメージです。

【図1】分散効果のイメージ(出所:BIG TREEにて作成)

上図のように、一つ一つの資産の動きは大きくても、異なる動きの資産を組み合わせることで資産全体のリスク(振れ幅)を抑えることができます。上図のイメージのように完全に逆相関に近い資産というのはなかなかありませんが、「相関関係の低い資産」を「より多く」組み合わせることで、かなりリスクを抑えることができます。

オルタナティブ投資の例

それでは、具体的にオルタナティブ投資にはどのようなものがあるのでしょうか?

不動産

実物不動産への投資は資産家が伝統的に行ってきた投資手法であり、不動産・株式・債券の三つに資産を分散して運用する財産三分法という考え方も古くからあったようです。現在は、実物不動産ではなく、不動産投資信託(REIT)の仕組みを使って、小額の資金で多くの不動産に分散投資を行うことが可能となっています。上場REIT(J-REIT)や上場REITを組み入れた投資信託に投資している個人も増えているかと思います。株式市場に上場しているREIT以外にも多くの私募REITが存在し、機関投資家が投資を行っています。

私募REITとは、私募ファンドの一種で、私募ファンドというのは、大口の機関投資家などを中心とする「50人未満の少数の投資家」を対象に募集を行うファンドです。公募ファンドに比べて規制が緩く、最低投資単位も大きいことが多いといった特徴があり、「プロ向け」の投資手段と言えるでしょう。大口投資家は、REITに限らず様々な資産についてこうした私募ファンドのスキームを活用し、公募の商品では得られない収益機会を求めています。私募REITは、いつでも売却できる上場REITより流動性は劣るものの、株式市場との相関性が高くなりがちな上場REITよりも高い分散効果が見込めるというメリットもあります。

インフラストラクチャー(インフラ)

インフラストラクチャー(インフラ)とは、発電所、空港、道路、鉄道、再生可能エネルギー、パイプライン、通信などの社会基盤等を指し、ファンド等を通じてそれらに投資を行うのがインフラ投資です。インフラ投資は長期的に安定的なインカムゲインが期待できる投資対象として注目されています。

機関投資家であれば、直接出資したり、私募ファンドを通じて投資することができますが、個人では投資が難しい資産でした。しかし、2015年に東京証券取引所にインフラファンド向け市場が創設され、J-REIT同様、現在は個人投資家でも手軽に投資できるようになってきています。また、2020年には「東証インフラファンド指数」の算出も始まり、再生可能エネルギーに投資できるということで、ESGの観点からも注目されています。まだ市場規模は小さく、2021年12月現在上場しているのは7銘柄で売買も活発とは言えないため、流動性等には注意を要するものの、今後J-REIT市場のように大きく育ってくる可能性もあります。

コモディティ

コモディティ(商品)とは、原油・天然ガス等の天然資源、金・プラチナ等の貴金属、大豆や砂糖等の農産物等を指します。原油価格の上昇でガソリン価格が上昇するなど、私たちの生活にも直結する資産でもあります。コモディティは、株式や債券等の伝統的資産とは異なる動きをすることが多く、高い分散効果が期待できる点、インフレに強い点等がメリットと言えます。一方で、値動きが大きい点やインカムゲインを得られない資産である点がデメリットと言えます。

個人で投資する手段としては、現在多くの商品指数連動型のETFが存在し、コモディティへの投資も容易になっています。値動きが大きく、出来高の少ない銘柄も多いので、インフラファンド同様流動性等には注意が必要ですが、かつては個人投資家が商品に投資したいと思っても、金を現物で持つくらいしかできなかったことを考えると非常に投資しやすくなっています。

ヘッジファンド

ヘッジファンドとは、「空売り」や「レバレッジ」、「デリバティブ/金融派生商品」等の非伝統的な運用手法を使って、相場が上昇している時だけでなく、下落相場の時でもリターンを出す絶対収益を追求した運用を行うファンドのことです。安定的な運用を求められる年金基金等でも採用されています。「ヘッジファンド」と聞くと、「危なそう」「リスクが高そう」というイメージを持つ方もいらっしゃるかもしれませんが、元々「ヘッジ」とは「回避」という意味で、「リスクを回避する」のがヘッジファンドの元来の目的ですから、実は安定的なリターンを着実に出すことを目指すファンドも多く、必ずしもハイリスク・ハイリターンではありません。とはいえ、採用している手法は複雑なものであるため、投資に当たってはある程度の理解が必要となります。

個人でヘッジファンド運用を取り入れる手段の一つとして、そうした運用をしている投資信託を購入する方法があります。ヘッジファンドと言えば、以前は最低投資単位が数千万~1億円程度といった高額な商品がほとんどでしたし、現在でもそのような商品も存在しますが、ヘッジファンド的運用をしている投資信託などはネット証券でも購入できます。
⇒商品性が複雑なため、特に投資経験の浅い方は、専門家のアドバイスの下で商品選択を行うことをお勧めいたします。弊社では投資信託の選び方についてのセミナー【リンク貼付】も開催しておりますので、ぜひご利用下さい。

また、最近では、株式市場の何倍もの動きを目指すようなレバレッジ型のETFや、株式市場が下落すると利益が出るベア型のETF等への投資が一部で人気になっているようですが、これらも個人でヘッジファンド的運用を取り入れる手段ではあります。しかし、非常にリスクが高く、安易に投資を行うことはお勧めできません。最近の人気ぶりは、分散投資やリスクヘッジの一環、というより、投機的に投資を行っている投資家が多いように見受けられます。

プライベート・エクイティ(PE)

プライベート・エクイティとは、「未公開株」あるいは「非上場株式」を指します。プライベート・エクイティ投資とは、創業間もない企業への投資(ベンチャー・キャピタル投資)や経営不振・後継者不在等の問題を抱える企業への投資(バイアウト投資、企業再生投資)、または、破綻した企業への投資(ディストレス投資)等を行い、企業価値を高めたり、再生したりした後、IPO(株式公開)やバイアウトによって利益を出す投資法です。上場株式と比べて流動性が低く個人が簡単に投資できない等のデメリットもありますが、伝統的資産以外の投資機会として注目を集めています。次回コラムで取り上げますが、莫大な資産を運用する年金基金や大学基金の運用にも積極的に取り入れられています。かなり「プロ向け」の資産となりますが、個人投資家でも、最低投資単位の大きいファンドラップ等に組み入れられているケースがあります。

プライベート・デット

プライベート・デットは、銀行以外の主体による企業への貸付を指します。一般に信用力の低い企業を借り手とする投資になり、信用リスクや流動性リスクが高いため、通常の債券投資よりも高いインカムゲインが期待できます。それでも、デット=負債は、株式より弁済順位が高いことから、前項のプライベート・エクイティ(PE)投資よりは低リスクの投資ということになります。リーマンショック後、銀行が信用力の低い企業への貸し付けに消極的であることからもプライベート・デット市場は拡大しています。ただし、こちらは個人で投資する機会はほとんどないかと思います。

【参考】https://www.tr.mufg.jp/houjin/jutaku/pdf/u201702_1.pdf

その他

時代に合わせて、オルタナティブ投資の対象は広がっています。現在は投機的に売買されることが多い「仮想通貨」なども、新たな通貨として注目している富裕層も少なくありません。また、注目度の上がっているNFT(Non-Fungible Token(非代替性トークン))等のデジタル資産もいずれオルタナティブ投資の手段として取り入れられていくかもしれません。

機関投資家におけるオルタナティブ投資

オルタナティブ投資は、個人よりもむしろ機関投資家の間で進んでいると言えます。金融商品の多様化により個人にもアクセスしやすくなったとはいえ、大口の機関投資家でないと投資できない資産も多いからです。機関投資家によるオルタナティブ投資導入の実例については、次回見ていきたいと思います。

個人投資家のオルタナティブ投資の取り入れ方

個人でオルタナティブ投資を取り入れる場合、単体で気になる資産があるのであれば、資産のコアの部分ではなく、サテライト的にETF等で小額から取り入れるのがよいでしょう。オルタナティブ資産は単体で見ると値動きが大きいことが多く、資産の大部分を投じると、かなり投機的になってしまいます。コア運用に取り入れたい場合は、パッケージになっている投資信託やファンドラップを、組み入れ内容をよく吟味して投資する方法がよいでしょう。

知識のある人ほど騙されやすい?!詐欺にもご注意を。

未公開株や仮想通貨に絡んだ投資詐欺が後を絶ちません。実はこうした詐欺は、全く投資の知識がない人よりも少し知識がある人や高学歴の人の方が引っ掛かりやすいという話もあります。全く投資の知識がないと、未公開株も仮想通貨もヘッジファンドも「なんだか恐ろしいもの」と思って話も聞かないでしょうが、オルタナティブ投資について、プロ向けの(リスクコントロールも含め)高パフォーマンスを期待できる投資対象であるといった知識を持っていて、さらに「(高学歴、高収入など)一定の選ばれた人にだけ案内している」などと言われるとその気になってしまうようです。こうした手口の詐欺が多いということも頭に入れておきましょう。

まとめ

オルタナティブ投資についてみてきましたが、いかがでしたか?「オルタナティブ投資」という言葉には馴染みがなくとも、すでにREITなどの資産を保有しているという方もいるのではないでしょうか。15年~20年以上の長期運用ができる投資家は、時間を味方につけた株式のみでの運用で十分かもしれませんが、限られた投資期間で安定的な運用をしたい投資家や、なるべく変動を抑えてリターンも確保したい投資家にとっては、資産の一部に取り入れてみることで資産全体のリスク・リターンが改善する可能性を秘めています。

本コラムが皆様の資産運用のご参考になれば幸いです。

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