以前の本コラムで「高いコストを払ってまでIFAを使う理由」についてお伝えしましたが、今回はアドバイザーの提供するサービスごとにその付加価値を考えてみたいと思います。

アドバイザーの与える付加価値は3%のリターンに匹敵?

顧客がアドバイザーに求めるものは何でしょうか?「市場を上回る高いパフォーマンス」?そう思われる方も多いかもしれません。現に、かつて証券会社に勤めているという話をすると、「どの株が上がるか分かるの?」などと聞かれたものです。「資産形成の方法を教えて」などと言われることはまずありませんでした。しかし、運用で市場リターンに勝つことが求められるのはアクティブファンドのファンドマネージャーであって、アドバイザーではないのです。では、アドバイザーは顧客に何をしてくれるのでしょうか?そして、アドバイザーが提供するサービスや助言にはそれぞれどれくらいの価値があるのでしょうか?それを明らかにしようと、2019年2月に米バンガード社が調査を行いました。以下は、同調査のレポート(以下、「レポート」)に掲載された、アドバイザーが提供する個々のサービスがどの程度のリターンをもたらしているのかを一覧にしたものです。

【図1】資産管理のベストプラクティスがもたらす付加価値(出所:バンガード社「Putting a value on your value: Quantifying Vanguard Advisor’s Alpha®」よりBIG TREEにて作成)

1ベーシスポイント(bps)は0.01%を表します。表によれば、アドバイザーのもたらす付加価値を総合すると平均的に約3%にもなるというのです(幅のあるデータについては平均的数値を取っています。)。以下、いくつかの要素についてピックアップして解説します。

アセット・アロケーション(資産配分)

アセット・アロケーションが顧客に与える付加価値が明示されていないのは、顧客ごとの違いが大き過ぎるため数値化が難しいからとしていますが、「投資リターンの9割以上が(投資する銘柄や投資タイミングではなく)アセット・アロケーションによって決まる」と言われており、やはり最も重要なのはアセット・アロケーションであると考える方は多いでしょう。
GL Brinson, R. Hood, and G. Beebower, “Determinants of Portfolio Performance”,July-August, 1986

しかし、レポートでは、アセット・アロケーションももちろん重要ではあるものの、より重要なのは、投資方針(アセット・アロケーションに加え、運用の目的や期間、年間の積立額や引き出し計画等)を最初にしっかり決めることであるとしています。これは後述するアドバイザーの行動コーチングの基礎ともなります。

アセット・アロケーションについては、株式60%、債券40%のシンプルなポートフォリオによるリターンが、高度な運用手法を駆使した寄付金運用の9割のリターンを上回っているデータなどを引用し、投資の成功に必要なのは複雑な運用手法ではなく、顧客に理解しやすいシンプルな運用手法で投資を継続させることであるとしています。

このレポートを見る限り、バンガード社のアセット・アロケーションの重要性に対する評価はあまり高くないように感じます。しかし、それもそのはずで、同社はインデックスファンドで世界的に有名な企業であり、当然コストを抑えてシンプルな運用を行うことが最も重要という立場を取っています。ですから、投資する商品はインデックスファンドでシンプルなポートフォリオの運用で十分、それを継続するためにアドバイザーを活用すべし、という主張なのでしょう。しかし上記のような比較(シンプルなポートフォリオと高度な運用)は、順調な右肩上がりの株式マーケットであったことを背景にしたものであり、この期間においては米国のIFAはアセット・アロケーションについて、特別な工夫が不要であったということに過ぎません。おそらく同様の比較を行う場合でも、データを取る時期や投資対象・地域を変えることで結果も変わってくるでしょう。客観的に思える調査であっても、データを取る時期や対象を変えることで、ある程度期待する結果に近づけることは可能ですので、その辺りは利用者側が発信者の立場等を考慮し、割り引いて見る必要があるでしょう。

特に右肩上がりでない時期も含むマーケットの歴史において、アセット・アロケーションがあまり重要でないということはありません。

行動コーチング

アドバイザーのもたらす付加価値の中で最も大きい150bpsの付加価値をもたらすとされているのが行動コーチングです。行動コーチングとは、感情的になり誤った行動をしそうになる顧客の行動を、正しい方へ導くこと(つまり、当初の方針に従って投資を継続させること)を指します。

投資をしていると様々な情報が耳に入ってきます。例えば、もっと良い投資先や、株価はこの先暴落するかもしれないといった情報です。相場が良い時には、「より高いリターンを得るためにもう少しリスクを取った運用をした方が良いのではないか」と考え、相場が悪い時には「一旦(または金輪際)投資をやめた方が良いのではないか」と考えるのが人間の心理です。最初に自分の許容リスクや投資目的から最適な投資計画を立てたはずなのに、それを守り抜くことはとても難しいのです。そんな時に当初のプランを思い出させるのがアドバイザーの役割です(ここで当初の計画がしっかりと時間をかけて考え抜かれたものであることが重要になってきます。)。アドバイザーの助言によって、高値で買ってしまったり、相場のどん底で売却してしまうという誤った行動を回避できたなら、それは数年分のアドバイザー報酬など帳消しにできるほどの付加価値をもたらすのだ、とレポートは訴えます。

また、レポートでは、投資家が誤った投資行動をしてしまっている証左として、インベスターリターンとトータルリターンの比較も行っています。投資信託の運用レポート等に掲載されているリターンは、ファンドの「トータルリターン」で、一定期間におけるファンドの運用成績を表しています。しかし、実際の投資家のリターンは売買をしたタイミングによって異なります。資金の流出入も加味して、実際に投資家が得ているリターンを算出したのが「インベスターリターン」です。ファンド自体の設定来の運用成績が大きなプラスであっても、高値で買っている投資家が多ければインベスターリターンは低くなります。そして、インベスターリターンはほとんどの場合、トータルリターンより低くなっているのです。それは、多くの場合、人々が投資した後に値上がりするのではなく、値上がりした後に人々が投資を行うからです。インベスターリターンとトータルリターンの差が大きいほど、後追いの傾向が強いと言えます。また、その差は、ファンドのカテゴリによっても特徴があり、狭い範囲に集中投資するファンドほど、差が大きくなります。いわゆるテーマ型ファンドなどはその好例でしょう(=ファンドの成績は良いが、投資家のリターンは意外と少ない)。逆に、幅広く分散されたファンドにおいては、その差が小さくなる傾向があるとも述べられています。アドバイザーの助言によってこうした「差」を埋めることができれば、投資家のリターンも高まるということです。

そして、相場の変動時に感情的になっている顧客に助言を聞き入れてもらい、適切な行動コーチングを行うために、当初の計画を時間をかけてしっかりと策定すること、また日常的に信頼関係を構築しておくこともまたアドバイザーの大切な仕事なのです。

アセット・ロケーション

アセット・ロケーションは、資産配分を意味するアセット・アロケーションと間違えやすいですが、「ロケーション」が「場所」を意味することから、資産の置き場所、つまり資産をどの口座で運用するかの戦略となります。日本でも、NISA(一般NISA、つみたてNISA、ジュニアNISA)やiDeCo(個人型確定拠出年金)やDC(企業型確定拠出年金)等、税制優遇口座の種類が増えてきています。アドバイザーの助言により、こうした口座を最も税効率の良い方法で使い分けることにより、最大75bps(0.75%)の付加価値があるということです。NISAやiDeCoの普及によりこうしたニーズは今後日本でもますます増えてくるでしょう。

引き出し戦略

こちらは、資産形成のステージの後に来る、資産引出(取り崩し)のステージにかかる問題です。日本ではまだ積み立て投資が普及し始めている段階ですので、複数の非課税口座で長らく資産形成し、それを取り崩す、という方は多くはないかもしれません。しかし、国民の多くがすでに複数の非課税口座で多くの資産を積み上げてきた米国では、どの口座の資産から使っていくかは非常に重要な問題です。アドバイザーの助言により税効率の良い順番で資産を取り崩すことができれば、顧客にとって最大110bps(1.1%)の付加価値をもたらすということです。

高齢者層の多い日本でも、これまで預貯金で積み立てた資産や退職金を運用しながら取り崩すというニーズが出てきています。こうした運用にうまく非課税口座を取り入れていくことや、公的年金、私的年金の最適な取り崩し方についてのアドバイスにはすでに大きなニーズがあるでしょう。

まとめ

見えづらいアドバイザーの付加価値を数値化するというバンガード社の取り組みについて見てきましたが、いかがでしたか?最も数値化しづらい「行動コーチング」が最大の付加価値をもたらしているという結果となりました。これは、他の学術研究でも明らかになっているところです。実は、「サービス」とも思えないような普段の何気ない会話も、顧客を知り、信頼関係を深めるために欠かせないものであり、長い目で見れば、それが顧客に利益をもたらす助言へと繋がっているのです。一般的に思い浮かべる「優良銘柄を教えてくれる」、「売買タイミングを教えてくれる」などダイレクトに利益に直結するものばかりがアドバイザーの価値ではありません。多くの賢人が、「投資に成功する秘訣は投資をやめないこと」と言っているように、顧客を投資の成功に導くのは、どんな相場の時でも心穏やかに投資を継続できるよう寄り添い、導いてくれるアドバイザーの存在なのかもしれません。

本コラムが、お客様の資産運用のご参考となれば幸いです。

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