ここまで4回にわたってファンドラップのメリット・デメリットについて詳しく見てきました。ファンドラップの今後はどうなっていくのでしょうか?そのヒントが金融先進国の米国における投資一任サービスの歴史に隠されているかもしれません。というのも、日本の金融業界は常に米国の後追いで発展してきており、ファンドラップ拡大の経緯も米国のそれと非常に似通っているからです。

今回は、米国のファンドラップの歩みから今後の日本のファンドラップの動向を占ってみたいと思います。

なお、米国には様々な種類の投資一任サービスがありますが(詳しくは後述)、本コラムでは総称して「マネージド・アカウント」と言います。

<ファンドラップに関する過去コラム>

・「ファンドラップとは?メリット、デメリットは?」
・「金融庁が指摘するファンドラップの問題点とは?」
・「金融庁によるファンドラップのパフォーマンス分析と各社の情報開示姿勢について」
・「ファンドラップの問題点をさらに深掘り!~販売業者側のメリット」

米国のマネージド・アカウントの歴史

米国のマネージド・アカウントは1975年にその原型が開発されたようですが、本格的に広がりを見せ始めるのは1994年以降のことです。

タリー報告書(1995年)

元々、米国でも日本同様、投資信託の回転売買にかかる問題が指摘されていました。1994年、「ファイナンシャル・アドバイザー(以下、「FA」)の評価・報酬体系によって過度な回転売買が助長されている」と考えた米国証券取引委員会により、タリー委員会(メンバーにはウォーレン・バフェットらも含まれる)が発足します。同委員会では、利益相反をなくすための「ベストプラクティス」の提言を目的としてFAの報酬に関する実態調査が行われました。調査の結果、顧客の利益にならない競争やインセンティブの存在が明らかとなります。そして、同委員会がまとめた報告書で、①顧客、アドバイザー、ブローカー(証券会社)が同じ方向を向き、長期リレーションを築けるような報酬体系、②アドバイザーが顧客の目的を理解し、市場やリスクについて顧客を教育することを促す政策、③アドバイザーに適切な教育、トレーニング、監督を行うことを促す政策、をベストプラクティスとして提言しました※1。その結果、FAの評価・報酬体系の変更が促され、コミッション型ビジネスから残高フィー型ビジネスへの転換が進んだのです。この辺りの導入の経緯は、金融庁の問題提起や規制等からフィー型ビジネスが広がった日本と似ています。

米国の場合は、一転して、マネージド・アカウントの提供に対しインセンティブを与えたり、個別銘柄の売買に対してペナルティーを課すなどの急激な方向転換を行った金融機関も多かったようです※2。極端なようにも感じますが、日本においても、ファンドラップの販売促進へ急転換した金融機関も多かったことを考えれば、似たようなものかもしれません。

不透明な運用内容

フィー型の報酬体系への移行に伴って手数料収入が減少したことにより、次の問題が起こります。それが「資産運用会社から販売会社へのキックバック料率が高いMA(マネージド・アカウント)の取り扱いや、過度に手数料の高い投信をMAに組み入れる傾向」です。こうした、いわゆる「不都合な真実」を隠すために、「手数料構造や組み入れ投信の情報開示を怠る事例」等もあったようです※2。このような動きは、現在の日本のファンドラップに対して指摘されている問題点と酷似しています。つまり、この辺りが現在の日本のファンドラップ市場の位置と言えそうです。米国ではこれが20~25年ほど前の出来事ですから、日本が米国から20年遅れとも、30年遅れとも言われているのとも一致します。

では、これから日本で起こることを占うべく、その後の米国のマネージド・アカウントのあゆみを見てみましょう。

米国の投資一任サービス(マネージド・アカウント)の現状

現在の米国マネージド・アカウントの現状はというと、この10年でさらに残高を伸ばしています。2010年に2.1兆ドルだった運用資産総額が、2020年9月時点で7.8兆ドルと、10年間で実に約3.7倍となっています※3

1994年頃から拡大したマネージド・アカウントですが、2008年の金融危機(リーマン・ショック)以降にさらなる拡大を遂げています。その背景には、金融危機時のパフォーマンスが他の資産への投資と比較して相対的に良かったことなどもあるようです。

米国のマネージド・アカウントの多様化

日本ではまだ見られていない動きとして、マネージド・アカウントの多様化があります。日本の投資一任サービスは現在SMAとファンドラップの2種類ですが、米国のマネージド・アカウントは5種類あります。

・SMA(セパレータリー・マネージド・アカウント)
・ファンドラップ
RA(レップ・アズ・アドバイザー)
RPM(レップ・アズ・ポートフォリオマネジャー)
UMA(ユニファイド・マネージド・アカウント)

以下、日本にはないRA、RPM、UMAについて見てみましょう。

レップ・アズ・アドバイザー(RA)

RAの主な特徴は以下の通りです。

  • 投資対象資産が幅広い(投資信託だけではなく、個別株式、外国株式、オプション、債券、ETF等)
  • 市場急変時などに機動的に資産配分を見直せる
  • 売買には顧客の同意が必要
  • 預かり資産ベースの手数料(フィー型)

基本的には、日本のファンドラップ同様、顧客のリスク許容度に応じたモデルポートフォリオで運用しつつ、一定範囲内でアドバイザーが個別銘柄の提案も行うことができます。最終的な投資判断は顧客に委ねられるため、アドバイザーは提案の都度顧客とコンタクトを取ることになります。この辺りは従来の証券会社と顧客の関係に似ていますが、残高ベースの手数料体系のため、売買があっても手数料は発生しません。アドバイザーは純粋に顧客資産を増やすことで収入を増やせることとなり、顧客との利益相反が起きづらい仕組みです。しかし、このRAが支持された最も大きな要因は、マーケット急変時に機動的に対応できる点です。従来のSMAやファンドラップでは、1人のファンドマネジャーで数千以上の口座を管理することから、マーケットの急落等が起こった場合も機動的な対応ができませんでしたが、RAであれば、個々のアドバイザーが柔軟に対応することができるとして、金融危機後に支持を集めました。

レップ・アズ・ポートフォリオマネジャー(RPM)

RPMはRAと似た名称ですが、その責任範囲が大きく違います。RAでは、取引に際して顧客の同意を得る必要があるのに対し、RPMは顧客の同意を得る必要がない口座になります。一般の方が、「資産運用をプロにお任せする」と聞いてイメージするのはまさにこのRPMではないでしょうか。もちろん、所属証券会社等から提供されるモデルポートフォリオをベースとしつつも、個々のアドバイザーが機動的に顧客口座の修正を行うことができる仕組みです。こちらも金融危機後に多くの支持を集めています。

ただし、RPMのアドバイザーにはRAのアドバイザーより更に厳しい要件を課された投資顧問事業者(投資運用業者)としての登録が必要となり、より厳しい受託者責任が課せられます。また、RPMサービスを提供している証券会社の多くは、RPMを提供するアドバイザーには証券アナリスト資格の取得や独自の資格プログラムの受講などを要件として課しています。RPMは日本のファンドラップのように、誰にでも提供できるサービスではないということです。

ユニファイド・マネージド・アカウント(UMA)

UMAは2003年に登場した口座で、複数の税制優遇口座への資産配分を最適化したいというニーズに対応して作られました※4。現在日本でもNISA、つみたてNISA、ジュニアNISA、iDeCo(個人型確定拠出年金)、企業型確定拠出年金(DC)等、様々な税制優遇口座があり、その使い分けに悩む方も多いと思います。アドバイスを受けながら使い分けている方もいるかもしれませんが、それらを一括管理したいという需要は多いでしょう。今後こうしたサービスが登場することも十分考えられます。

日本の投資一任サービスの今後はどうなる?

米国の投資一任サービスのここまでのあゆみと現状を見てきました。これらを踏まえて、今後の日本の投資一任市場はどのようになっていくでしょうか?米国と同じような道筋をたどるのであれば、今後新たな投資一任サービスが現れたり、透明性が高まっていったりしながら進化・発展を遂げていくことが期待されます。また、サービスを提供するアドバイザーにも、より高度な知識や厳しい倫理観、受託者責任が求められていくでしょう。

サービスを利用する側としては、今後起こりそうなこうした動きを見据えたサービスを提供している業者を選びたいものです。

本コラムが、お客様の資産運用のご参考となれば幸いです。

[参考文献]

※1SEC, “Report of the committee on compensation practices”, April, 1995.
※2岡田功太、和田敬二朗「米国SMA・ファンドラップの拡大を支えた規制と金融機関経営の変遷」『資本市場クォータリー』2015年春号
※3「米国のリテール金融「マネージド・アカウント」の成長」(日本経済新聞、2021年4月14日)
※4岡田功太、和田敬二朗「近年の米国SMA及びファンドラップ市場におけるイノベーション」『野村資本市場クォータリー』2015年夏号

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