近年、好調なパフォーマンスで推移していたJ-REIT(不動産投資信託)。投資信託などを通じて投資している方も増えています。そんな中で、東証に上場している個別REIT銘柄の利回りに対して、J-REITファンドの分配金利回りが高過ぎるのではないか、という疑問のお声をいただきました。そこで今回から数回に分けて、J-REITについて深掘りしていきたいと思います。

J-REITの分配金

そもそもJ-REITは、収益の90%超を分配するなど、一定の条件を満たせば、実質的に法人税が課税されない仕組みとなっており、高い分配(≒株式で言う配当)が期待できる投資対象です。

7月20日時点のJ-REIT平均分配金利回りは約4.4%となっており、日経平均採用銘柄の平均配当利回りが2.09%ですから、株式と比べてもかなりの高配当と言えます。

J-REITファンドの分配金利回り

ところが、そのJ-REITを組み入れているJ-REITファンドの利回りがもっと高くなっているのです。

以下の図は、国内の純資産残高トップ(2020年7月20日時点)の「J-REIT・リサーチ・オープン(毎月)」と同2位の「ダイワJ-REITオープン(毎月)」の分配状況です(現在の分配金が一年間支払われ続ける前提で年換算利回りを計算しています。)。

「J-REIT・リサーチ・オープン」は、J-REITを投資対象としたアクティブ・ファンドです。2020年6月末日付のマンスリー・レポートを見ると、組み入れ銘柄の予想配当利回りは、4.43%となっています。

ダイワJ-REITオープンは、東証REIT指数に連動する運用成果を目指すインデックス・ファンドですので、組み入れ銘柄の平均利回りは、東証REIT指数に準ずる4.4%程度となっているはずです。

であれば、なぜ年換算でこれほど高い分配金を出せるのでしょうか?

投資信託の分配金のしくみ

そもそも分配金はどこから出ているのでしょうか?(REITに限らず)投資信託全般の分配金のしくみを詳しく見ていきましょう。

※投資信託の分配金の話は以前にも取り上げました。

今回は、組入れ資産からの配当収入を上回る分配金が出せるのはなぜなのか、さらに詳しくご説明していきます。

分配対象額の確認

そもそも、分配対象(分配金の原資)となるものは、以下の4つです。

①経費控除後の配当等収益
②経費控除後の評価益を含む売買益
③分配準備積立金
④収益調整金

①に当たるのが、皆さんがイメージする配当収入の部分で、いわゆるインカム・ゲインです。J-REIT・リサーチ・オープンで言うと、4.43%の配当収入から経費を引いたもの、ということになります。ここに②の(保有資産の値動きによる)評価益と(銘柄の入れ替え等に伴う)売買益を加味します(いわゆるキャピタル・ゲインに当たります。)。③は、①と②のうち、分配金として支払った残りの余剰分を積み立てた金額です。

つまり、①は安定的に入ってくると見込まれますが、②は値動きがあるので、変動してしまいます。そこで、①と②で足りない場合に、過去に超過収益が出た際に貯めておいた③から充当する、というしくみです。ここまでは分かりやすいかと思います。

問題は、④の収益調整金です。

収益調整金とは

収益調整金とは

「追加設定によって既存の受益者に対する分配対象額が希薄化しないようにするために、新規の受益者からも分配対象額の一部を負担してもらうための勘定項目」(三井住友アセットマネジメント『投資信託の基準価額と分配金がわかる本』より)

例えば、10,000円で設定された投資信託を設定時から10,000口購入・保有していた投資家Aさんがいます。この投資信託が最初の決算までに1000円値上がりし、11,000円になったとします。この場合の分配可能額は、1,000円となります。しかし、決算直前に新しい投資家Bさんが、11,000円でこの投資信託を10,000口購入したとします。投信の残高は全体で22,000円(口数は20,000口)となり、収益調整金がない場合、このうちの分配可能額は1000円のままですから、2人の投資家に分配金を出すと、1人500円しかもらえません。そうなると、元々保有していたAさんが不利益を被ることになりますから、収益調整金という勘定科目を設定し、Bさんの購入分11,000円のうち、1,000円は「収益調整金」とします。これにより、決算日にAさん・Bさんそれぞれに1,000円の分配金支払いが可能になるのです。これが収益調整金という勘定項目が設けられている理由です。

※分配対象額については、目論見書にもきちんと記載があります。

良い分配、悪い分配

ここまでの内容をまとめると、組入れ銘柄の利回り以上の分配金が出せる理由は、以下の3つでした。

  1. 値上がり益
  2. 過去の収益の積み立てからの取り崩し
  3. 収益調整金

これらを原資とする分配金は、投資家にとってどのような問題があるでしょうか?

1.値上がり益からの分配

値上がり益からの分配については、それほど問題はないように思えるかもしれません。しかし、REITは値動きのある資産ですので、値上がりする時もあれば、値下がりする時もあります。そのなかで、「定期的に」「安定した」分配金を出す、という観点からはどうでしょうか?値上がり益からの分配については、「ボーナスのようなものであって、相場が悪くなれば出せなくなる」と購入者が理解していれば問題ないでしょう。しかし、実際に値上がり益が見込めない相場になり、分配金を減額することになると、「運用成績が悪くなった」「売った方が良いかも」と狼狽する購入者も多いのではないでしょうか?そういう意味では、値上がり益をどんどん分配していくという分配方針は、分配金を不安定にさせる可能性はあるでしょう。

2.過去の収益の積み立てからの取り崩し

分配準備積立金からの分配は、安定的な分配のためには当然のことでしょうが、自分が購入してから基準価額が上がっていないのに、過去の遺産である分配準備積立金から高い分配金を受け取っているのであれば、良い分配とは言えません。普通分配金ではなく、特別分配金が多くなる、いわゆる「たこ足分配」の状態です。

特別分配金についてはこちら。

3.収益調整金

最も問題なのが、この収益調整金からの分配です。通常、残高が増えているファンドにおいては、この収益調整金は潤沢にありますので、相場がどんなに悪くても、分配原資が尽きることはそうそうありません。しかし、この収益調整金はあくまでも既存の受益者(すでに購入して持っている人)が不利益を被らないように設定されたもので、投資の成果でも何でもありません。便宜上必要で収益調整金から分配を出すのは仕方ないですが、将来の分配原資として当て込むようなことがあってはいけないと思います。

まとめ

なぜ、J-REITファンドが組み入れ銘柄の利回り以上の分配金が出せるのかを見てきました。その理由は、投資信託の分配金の仕組みがありました。

次回は、「J-REIT・リサーチ・オープン」と「ダイワJ-REITオープン」を例にとり、具体的に分配金の中身を見ていきましょう。

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【ご注意事項】
投資信託は、主に国内外の株式や債券等を投資対象としています。投資信託の基準価額は、組み入れた株式や債券等の値動き、為替相場の変動等により上下しますので、これにより投資元本を割り込むおそれがあります。
投資信託は、個別の投資信託毎にご負担いただく手数料等の費用やリスクの内容や性質が異なります。ファンド・オブ・ファンズの場合は、他のファンドを投資対象としており、投資対象ファンドにおける所定の信託報酬を含めてお客様が実質的に負担する信託報酬を算出しております(投資対象ファンドの変更等により、変動することがあります)。
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