「投信選びの基礎知識」シリーズをお送りしていますが、今回は番外編として、毎月分配型投信について考えてみたいと思います。

これまでのコラムはこちら↓
投信選びの基礎知識①ファンドの投資対象は?
投信選びの基礎知識②インデックスファンドとアクティブファンド
投信選びの基礎知識③投資信託の手数料(前編)
投信選びの基礎知識④投資信託の手数料(後編)
投信選びの基礎知識⑤為替ヘッジありとなし、どっちがいいの?
投信選びの基礎知識⑥決算頻度と収益分配

一時は投信残高の7割超を占めていた毎月分配型投信。すでに持っているという方も少なくないでしょう。しかし、いつの頃からか、毎月分配型投信は良くないというイメージが広がり、金融機関でも積極的に販売しなくなりました。「元本取り崩し」「たこ足配当(正しくは分配)」などという言葉を断片的に記憶している方もいるかもしれません。ところが、昨年半ばころから資金流出が続いていた毎月分配型投信に再び資金が流入し始めているのです。あらためて、毎月分配型投信はなぜ悪いと言われているのか、見ていきたいと思います。

毎月分配型投信のあゆみ

まず、日本における毎月分配型投信のこれまでの歴史を見ていきましょう。

1997年          グローバル・ソブリン・オープン(通称「グロソブ」)設定
2000年          グロソブが投信残高TOP10入り、売り上げを伸ばす
2002年          グロソブ、投信残高首位・1兆円ファンドに
より高い分配金を求める投資家が増え、毎月分配型投信の投資対象が広がり始める
2003年          REIT(不動産投資信託)を対象とした毎月分配型投信が設定され始める
2005年          世界の高配当株に投資するピクテ・グローバル・インカム株式ファンド(通称「グロイン」)設定
2006年          グロイン、1兆円ファンドに
2007年          グロイン、残高約2兆8,000億円を記録、残高ピークに
2008年8月    グロソブ、残高約5兆8,000億円を記録、残高ピークに
2008年9月    リーマン・ショック
リーマン・ショック後の相場回復で、高リスク投信の運用が好調に。分配金を切り下げたグロソブは解約続く。
2014年          12年間純資産残高首位を維持していたグロソブが首位陥落、代わってUS-REIT、ハイ・イールド債、高配当株投信等ハイリスクの毎月分配型が人気化
2017年10月  金融庁の「平成28事務年度版金融レポート」が毎月分配型投信の問題点に言及
2017~18年   毎月分配型投信からの資金流出が続く(※グロインは2017年10月から流入に転じる)
2019年4月    グロイン、初めて純資産残高トップに(4月末残高は9,526億円)
2019年5月    毎月分配型投信が資金流出から資金流入に転じる

こうして毎月分配型投信のあゆみを見てきますと、「グロソブのヒット」→「より高分配のグロインのヒット」→さらなる高分配資産を求めたREITやハイ・イールド債への投資対象の拡大、という流れが見て取れます。

毎月分配型投信の問題点

では、具体的に毎月分配型投信のどこが問題なのでしょうか。

金融庁レポートの指摘

金融庁の2018事務年度金融レポートで指摘された問題点は主に次の3つです。

  • 運用効率の悪さ
  • 顧客の理解度の低さ・説明不足
  • 顧客ニーズの確認不足

※ご参考
平成28事務年度金融レポートはこちら
主なポイントの要約はこちら

以下、一つずつ見ていきましょう。

運用効率の悪さ

金融庁レポートでは、「複利効果が働きにくい」、「元本を取り崩しながら分配される場合には運用原資が大きく目減りして、運用効率を下げてしまう」という問題点に言及しています。

●複利効果が働きにくい

毎月分配型投信は、分配金を出してしまうことで長期の資産運用に有効な複利運用ができないため、長期の資産形成には不向きです。(※複利運用とは、運用益を元本に加えて再投資することで、利益がさらなる利益を生むことのできる運用方法。長期での運用において、運用益を再投資せずに受け取る「単利運用」と大きな差が生まれる。)

●元本の取り崩し問題

前回コラムでもお伝えした通り、毎月分配型投信の中には、元本を取り崩して分配金を出す「たこ足分配」になっているものが多く存在します。これは、基準価額が大きく下落しているにもかかわらず分配金の水準を大きく引き下げることができず定期分配を継続しているためです。

たとえば、世界の高配当株で運用するグロインの2020年5月18日現在の基準価額は2,426円。5月の分配金30円から単純に利回りを計算すると、30円×12か月=360円、360÷2,426×100≒14.8%(年利)となります。投資先企業の配当利回りが14.8%あるわけでも、運用がうまく行ったからボーナス分配をしているわけでもなく、定期分配の水準を大きく切り下げることなく継続した結果、分配金が見かけ上高利回りになってしまっているのです。顧客の預けた元本を切り崩しているというのが実態ですから、健全とは言えません。これは、グロインの運用の上手い下手という話ではなく、分配方針に問題があるということです。このような無理な分配を続けていれば、当然運用できる資金は目減りしていきますので、運用効率は悪くなります。

顧客の理解度の低さ・説明不足

さらに問題なのが、こういった運用効率の悪さを理解せずに購入している投資家が多いことです。金融庁レポートによると、「『分配金として元本の一部が払い戻されることもある』ことを認識していない割合は5割弱、『支払われた額だけ、基準価額が下がる』ことを認識していない割合は約5割」(※投資信託協会のアンケートに基づく)とのことです。その後かなりメディアなどでも取り上げられましたので、今ではもう少し比率は下がっていると思われますが、現在でもなお「分配金=儲け」「分配金が出ている=運用がうまく行っている」と思っている投資家は少なくないでしょう。この点については、商品ではなく、金融機関の販売姿勢に問題があると言えます。

顧客ニーズの確認不足

また、分配金の使用目的として「特に使わない」「同じ投資信託を購入する」等の回答が相当数見られたことから、「顧客ニーズを十分に確認せずに販売が行われている可能性」を指摘しています。こちらも金融機関の販売姿勢を問う指摘で、毎月分配型そのものが悪いというよりは、必要としていない顧客に販売されていることが問題であるとしています。

毎月分配型投信本来の目的は「運用しながら取り崩す」というニーズに応えるためでしょうが、そのニーズがない顧客に「売りやすいから売る」という姿勢は問題です。

その他の問題点

コスト

毎月分配型投信を強く批判する主張の中に「コストが高い」というものも散見されますが、同カテゴリの他ファンド(グロソブなら海外債券型、グロインなら海外株式型の他ファンド)と比較してみても、割高なものもあれば逆に割安なものもあるという状態で、「毎月分配型だから高い」とは言い切れません。したがって、毎月分配型投信のコストが高いという主張は、インデックスファンドなどの低コストの運用手段と比較してのものなのでしょう。

投資対象資産の問題

もう一つ、投資対象資産の問題点を付け加えたいと思います。

日本の毎月分配型投信の投資対象は、より高い分配金を求めて債券からREIT、ハイイールド債、高配当株へと広がってきました(※ハイイールド債とは、低格付けでリスクが高い代わりに、高利回りが見込める債券)。これらは高いインカムゲインは見込めるものの、値動きが大きくリスクの高い資産です。その結果、相場が好調な時には値上がり益もあって高い分配金を出していましたが、リーマンショックで基準価額が大幅に下落。その後も、分配を少しずつ切り下げたものの、中止はせずに出し続けたため、さらに元本を取り崩すことになったのです。

そもそも金融先進国の米国における毎月分配型投信の多くは債券型であり、利子の範囲内で分配するという方針を取っています。そもそも長期資産形成に向かない毎月分配型投信が、高リスクの資産を投資対象にしている点に矛盾があるのではないでしょうか。高リスク資産を対象とした毎月分配型投信に投資を行う場合は少なくとも、運用好調時の高分配はインカムゲイン(利子・配当収入)だけでなく、キャピタルゲイン(値上がり益)からも出ていること、値下がりした場合は、分配金が大幅に下落する可能性もあることを理解しておく必要があるでしょう。

まとめ

毎月分配型投信の問題点を見てきましたが、いかがでしたか?
毎月分配型というしくみそのものに問題があるのではなく、「商品を理解せず、より高い分配金を求める顧客」に対し、「売れそうな商品を開発していた運用会社」と「必要としている顧客ではなく、買ってくれそうな顧客に、十分な情報提供をせず販売していた販売会社」というそれぞれの問題点が見えてきました。
その一方で、毎月分配型投信の購入をきっかけに投資の世界へ足を踏み入れた投資家も多かったでしょう。「知らずに買って損をした」で終わらせるのではなく、自分が投資したものをよく知ることで賢い投資家への道を歩き始めるきっかけになるとしたら、毎月分配型投信の果たした役割は大きいと言えるかもしれません。次回も毎月分配型投信について取り上げます。

【ご注意事項】
投資信託は、主に国内外の株式や債券等を投資対象としています。投資信託の基準価額は、組み入れた株式や債券等の値動き、為替相場の変動等により上下しますので、これにより投資元本を割り込むおそれがあります。
投資信託は、個別の投資信託毎にご負担いただく手数料等の費用やリスクの内容や性質が異なります。ファンド・オブ・ファンズの場合は、他のファンドを投資対象としており、投資対象ファンドにおける所定の信託報酬を含めてお客様が実質的に負担する信託報酬を算出しております(投資対象ファンドの変更等により、変動することがあります)。
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