毎月分配型は良くない、と言われて久しいですが、老後資金を運用しながら取り崩すニーズは間違いなくあり、毎月分配金を受け取りたいと思う投資家もいることでしょう。そのような投資家はどうすればよいのでしょうか?
今回は、毎月分配型ファンドに代わる出口戦略として「定期売却サービス」をご紹介していきたいと思います。
毎月分配型の問題点とは
そもそも「毎月分配型ファンドを買ってはいけない」などと言われる理由は何だったでしょうか。
【ご参考】「毎月分配型投信のどこが悪いのか?」
一つは、毎月定額の分配金を払い出すことにより、利息がさらに利息を生む複利効果が得られず、長期で大きく資産を増やすうえで運用効率が悪い、ということが言われます。これは、これから資産を大きく増やしていきたい若い世代にとってはその通りなのですが、蓄えた資産を取り崩すステージに入っている退職世代は、そもそも「長期で大きく資産を増やす」ことを目的としていないため、あまり当てはまりません。ですから、退職世代にとって毎月分配金が出る仕組み自体が悪いわけではないのです。
問題なのは、分配金の水準を自分で決められないことです。実力以上の分配金により元本部分を取り崩し、タコ足分配状態になってしまっている毎月分配型ファンドが多いことも問題視されていますが、そもそも運用や分配金政策がまずいファンドは論外として、良い運用をしているファンドであっても、「運用しながら取り崩す」個々のニーズにはマッチしない場合があるということです。最近では非常に堅実な分配政策を取るファンドも増えてきており、全体としては健全性が保たれている毎月分配型の商品も増えてきています。しかし、健全性が高いのと、自分のニーズに合っていることとは違います。
たとえば、すごく安定した良い運用をしているファンドがあっても、分配金がわずかしか出ないケースを考えてみましょう。「儲かったらお小遣いをもらう」という投資目的なら良いですが、年金を補う収入源としたい場合、分配利回りが低いと、かなり大きな額を投資しないといけなくなります。例えば、月に5万円を手取りで受け取りたい場合、年率1.8%の分配利回りのファンドであれば、約4,170万円の運用資産が必要になります(売却益への課税を20%として計算)。その分配金にしても、相場や分配方針によって変わってしまうこともあるわけですから、自分のニーズを満たすためには常に投資家の方が商品に合わせなければいけなくなってしまいます。
【ご参考】タコ足分配について、詳しくは過去のコラムでも解説しております。
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そうした問題を解消できるのが、定期売却サービスです。
定期売却サービスとは
投資信託の定期売却サービスとは、顧客の指定した売却日、売却額、売却頻度(毎月、隔月等)で自動的に投資信託を売却してくれるサービスです。積み立ての逆を行うイメージといえば分かりやすいでしょうか。
定期売却サービスで全てのファンドが選択肢に!
モーニングスター社のサイトで検索を行うと、毎月(または隔月)分配型のファンドは全部で1,287本見つかります(ETF・DC専用・SMA専用を除く)。一方、同条件で毎月(または隔月)分配という条件を外すと、4,696本のファンドが見つかります(2021年6月24日現在)。つまり、定期売却サービスを使えば、毎月分配型ファンドでなくても毎月定額を引き出すことができ、これまでよりはるかに多くの選択肢の中から商品選びができるようになるのです。
定期売却サービスが広がる背景
投資信託の定期売却サービスを最初に始めたのはSBI証券で、2012年3月16日のことでした。当時のサービス開始のお知らせには、「定年退職されたお客様が、積立投資で長年蓄積させてきた投資信託を、そのまま運用を継続しながら、年金の補完として少しずつ売却して現金を受取るという形でご活用いただけます。」とあります。預かり資産が毎月増えていく「積み立て」とは逆に、預かり資産を毎月減らすことになるサービスであるためか、その後しばらくは追随の動きもなく、広がりを見せていませんでした。しかし、2017年頃から金融庁が「高齢社会における金融サービスの在り方」を検討し始めたことにより、「資産寿命を延ばす」、「運用しながら取り崩す」といった高齢期における運用の在り方が論じられるようになりました。その後さらに「人生100年時代」、「老後2000万円問題」などが注目されたことなどからも老後の運用への関心が高まり、2019年12月に楽天証券もサービスを開始、その後も、導入する証券会社・銀行がじわじわ増えてきています。
定額引き出しの問題点
画期的な定期売却サービスですが、「毎月一定額を取り崩す」という意味では、毎月分配型ファンドと同様の問題は抱えています。毎月分配型ファンド以外の選択肢が広がったとはいえ、値上がり益追求型の株式ファンドのように値動きの大きな資産は本来毎月一定額を取り崩すのにはあまり向いていません。積み立てをする場合には、毎月一定額を買い付けることにより、安いときには多く、高いときには少なく購入することで平均購入単価を低くする効果が期待できるのですが、取り崩しの場合には、定額売却は不利になることがあります。すなわち、安い時に多く売り、高い時に少なく売るため、特に運用初期に相場が低迷した場合などに、元本が大きく毀損してしまうことがあります。
収益率配列のリスク
資産形成を終えた世代向けに資産の取り崩し等について啓発活動を行っている、フィンウェル研究所の野尻哲史氏が「収益率配列のリスク」という概念をその著書等で紹介しています。以下の図をご覧ください。
【図1】収益率配列のリスク(出所:野尻哲史「定年後のお金 寿命までに資産切れにならない方法」(講談社、2018年)より、赤丸は筆者)
60歳からの15年間、1000万円の資金を運用したケースを、二つのポートフォリオで比べています。ポートフォリオAとポートフォリオBは同じ標準偏差、同じ複利収益率ですが、毎年の収益率の並びを逆にしてあります。野尻氏の推奨する「定率引き出し」の場合は、15年後の資産残高はポートフォリオA、Bいずれも621.7万円で変わりませんが、「定額引き出し」を行うと、ポートフォリオAは670.4万円なのに対し、ポートフォリオBは240.5万円とかなりの差がついています。運用初期にマイナスが多かったポートフォリオBでは、15年後の資産残高がかなり少なくなってしまうのです。ちなみにこれは、運用初期がマイナスで運用後期にプラスになる相場に強い積み立て投資とは逆の現象です。
【参考】「iDeCoやつみたてNISA、今から始めて大丈夫?~積立投資と相場の関係~」
このように、「平均」は同じでも、収益率の並び方によって、運用成果に大きな差が出てしまうことを「収益率配列のリスク」と言い、定額引き出しのリスクとして存在します。この点については、毎月分配型ファンドだろうが、定期売却サービスだろうが変わりません。
対策
こうしたリスクを回避する方法として野尻氏は定率での引き出しを勧めています。しかし、定率で引き出す場合にも、毎年の引出額が相場によって大きく変動してしまうことや、資産総額が減ってくる運用後半に引き出し額が減ってしまうこと等課題はあります。定額引き出しを行いながら極力「収益率配列のリスク」を回避する方法としては、なるべく変動を抑えた運用をするという方法があります。また、リスク許容度に応じて、コア資産はリスクを抑えて定額引き出し、サテライト資産でハイリスクハイリターンの資産に投資を行い、定率引き出しを行う、など考えられる対策は色々あります。
望まれる定率売却サービス
まだ多くはありませんが、楽天証券やフィデリティ証券など、定率での定期売却サービスを行っている金融機関も出てきています。積み立てによる資産形成の機運が高まってきている一方で、退職後引き出しながらの資産運用についての議論はまだ遅れていますが、今後高齢化が進む中で、退職後の資産運用への関心は高まる一方でしょう。そうした流れの中で、定期売却サービスや定率での売却サービスを取り入れる金融機関が増えていくことが望まれます。
まとめ
定期売却サービスについてご紹介してきましたが、いかがでしたか?
毎月分配型でないファンドにも選択肢を広げて、自分のニーズに合った運用ができる機会が広がったのではないでしょうか。
また、悪者にされがちな毎月分配型ファンドですが、運用がベンチマークより劣っていても、配当政策がまずくても、設定来のパフォーマンスを見ると、案外プラスになっているファンドが多いのも事実です(もちろん分配金込みベースです)。それは、ここ10年ほど相場が良かったおかげです。毎月分配型ファンドに投資した投資家は、よほどの高値で買って短期で売っていなければ、超低金利の預貯金に置きっぱなしにしていたよりはトータルでプラスになっている方が多いのではないでしょうか。多くの投資未経験者が、毎月分配型ファンドをきっかけに投資の力を実感できたという意味では、毎月分配型ファンドの果たした役割は大きかったと言えます。ここからさらに一歩進んで、良いファンド、自分に合ったファンドを見極める目を養って投資を継続する人が増えることを望みます。
本コラムでも、微力ながら、これからも投資に役立つ情報をお伝えしていきたいと思います。
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