老後2000万円問題は、総務省の家計調査年報の「高齢夫婦無職世帯」の家計収支データを基に試算されたものでした。高齢夫婦無職世帯とは、サラリーマンの夫が退職して、専業主婦の妻と夫婦二人の年金生活となった場合、つまりいわゆる「モデル世帯」の老後のイメージです。しかし、現在ではこうしたケースは必ずしも大多数とは言えなくなってきているのではないでしょうか。

そこで今回は、老後2000万円問題の根拠となった総務省の家計調査年報のデータから、おひとりさまの場合はいくら不足するのか?を見ていきたいと思います。

なお、「うちはいわゆるモデル世帯だから」と思っている方も、夫婦のいずれかが亡くなった場合には「おひとりさま」世帯となる可能性が高いですから、他人事と思わず確認してみてください。

2017年のおひとりさまのデータ

老後2000万円問題で採用された2017年の「高齢夫婦無職世帯」のデータでは、毎月の可処分所得から消費支出を差し引いた「不足分」が54,519円でした。この数字を基に、退職後20~30年生きると考えて、1,300万円~2,000万円が不足すると試算されました。

(計算根拠)54,519×12(か月)×20~30 ≒ 1,300~2,000万円

では、同じ2017年の高齢おひとりさま世帯(高齢単身無職世帯)の収支はどうなっていたでしょうか?

【図1】高齢単身無職世帯の家計収支(2017年)(出所:総務省統計局「家計調査年報(家計収支編)」

【図1】を見ると、不足分が「40,715円」となっています。モデル世帯同様の計算を行うと、9,771,600~14,657,400円、つまりざっくりと1,000万円~1,500万円不足する、と言えそうです。夫婦世帯より金額は少ないですが、「一人当たり」で考えると金額は高くなります。住居費や光熱・水道費などが一人暮らしだからと言って半分になるわけではないからです。

2000万円問題のその後

高齢夫婦無職世帯の場合

実は、高齢夫婦無職世帯の場合、その後毎月の収支の赤字額は縮小傾向にあり、2018年度は41,872円、2019年度は33,269円、2020年度にはなんと1,111円の黒字となっています。ただし、2020年度の場合は、コロナ禍の影響で、特別定額給付金(夫婦なら二人分で20万円)により収入が増加する一方、外出自粛などで行動を制限されたことなどから支出はトータルで減少したため、例外的に黒字になったものと思われます。2020年度は例外としても、2019年度の数字で見れば、2000万円問題は、約1200万円※問題となっています

※33,269(円)×12(か月)×30(年)=11,976,840円

高齢夫婦単身世帯の場合

では、単身世帯の方はどうなったでしょうか?

まず、2018年度の赤字額は38,670円、2019年度は27,090円、そして、2020年度は7,723円と、やはり縮小傾向にあります(単身世帯の2020年度収支は黒字にはなっていません。)。なお、2020年度分から、これまでの「高齢単身無職世帯」の定義が60歳以上の単身無職世帯から65歳以上の単身無職世帯に変わりました。これにより、社会保障給付(年金)収入が増加しており(おそらく60歳以上65歳未満では年金を受け取っていない人が多いため)、そのことでも赤字額が縮小した可能性があります。連続性がないデータである点、ご了承ください。

【図2】高齢単身無職世帯の家計収支(2019年)(出所:総務省統計局「家計調査年報(家計収支編)」

ということで、おひとりさまの2000万円(1,500万円)問題は、2019年度時点では約1,000万円※問題になっているということです。

※27,090(円)×12(か月)×30(年)=9,752,400円

「65歳以上の単身無職世帯」の中身

ところで、この「65歳以上の単身無職世帯」に含まれるのはどういった人々でしょうか?2000万円問題の高齢夫婦無職世帯は、非常に分かりやすくイメージできるモデルですが、65歳以上の単身無職世帯には、生涯独身の男性・女性、離死別により単身となった男性・女性(老後、夫に先立たれた妻、妻に先立たれた夫を含む)、など様々な属性の人たちが含まれています。その意味では、平均で見ることにはあまり意味がないかもしれません。生涯独身で生きてきた人たちは教育費の負担もなく、それなりに老後の準備をしてきた可能性がありますが、配偶者に先立たれて単身となった場合、生活は変わらないのに年金収入が減り、急に収支が悪化するケースも考えられます。単身無職世帯はそれらの様々な属性の人々の平均値ですので、平均はあくまでも参考にとどめ、自分の場合で考えてみることが大切です。

まとめ~資産運用の目的は?

ここまで老後生活の収支を色々とみてきましたが、つまるところ、収入に応じた暮らしをすれば赤字にはなりません。実は現在の60代以上は貯蓄残高も多く、同じ2019年の家計調査年報(貯蓄・負債編)を見ると、世帯主が60代以上の二人以上世帯の貯蓄残高は、平均2,285万円、貯蓄保有世帯の中央値で見ても1,506万円もあるのです。つまり、「家計収支の月々の赤字額から試算すると老後2000万円必要」なのではなく、「貯蓄が2000万円あるから、それに応じて支出していた」というのが真実である、と見ることもできるのです。これをもって「老後2000万円問題など存在しない」と主張する方もいます。

老後2000万円問題が存在しないなら資産運用も必要ないのでしょうか。筆者はそうは思いません。もちろん、今後年金支給額が減る可能性がある、退職金も減少傾向にある、インフレリスクも存在する、など、これから高齢者となる世代に不安が多くあるのも事実です。そのためにも資産運用は必要だと思います。しかし、仮にそうした不安がなくても資産運用はした方がよいと思います。その理由を、米国最大級のリテール証券会社であるチャールズ・シュワブの創業者、チャールズ・シュワブ氏がその著書の中でうまく表現しています。

「社会保障は、せいぜい最低限の生活水準だけを保証している。それ以上のことを望むなら、投資家にならなければならない。」

(チャールズ・シュワブ著『ゼロ・コミッション革命』(一般社団法人金融財政事情研究会、2020年)p.345)

年金制度はあくまでも「最低限」であり、「豊かに」老後を暮らしたいと思うなら、自助努力での資産形成が必要であるということです。資産形成のためには、投資の知識等と合わせて、こうした年金制度への理解も必要なのではないでしょうか。

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