皆さんは投資をされていますか?投資をされている方は自分のレベルに合った投資ができているでしょうか?投資を始めようと思った時、いきなりハイレベルなことをしようとしてしまう人が少なくありません。今回は、投資初心者によくある勘違いや失敗しがちなポイントについてお伝えしたいと思います。すでに投資を始めている方の中にも、実は自分が思っている以上にリスクを取っていることに気づいていないケースがありますので、ぜひチェックしていただければと思います。
金利が高ければ定期預金でもよい
そもそもの前提として、金利が高い時代であれば、運用手段は定期預金で十分でした。「運用」というと、株式や投資信託への投資を思い浮かべる方が多いと思いますが、預貯金も立派な運用手段です。かつてのように定期預金で7%程度の利息が付くなら、リスクを取って運用する必要はありませんでした。しかし、現在のようなゼロ金利という状況下では、預貯金や債券といったいわゆる「安全資産」だけの運用ではとても資産を増やすことはできません。そこでリスクを取った資産運用が必要になっているというわけです。
初心者にお勧めは「長期・積立・分散」投資
リスクを取った運用をする場合、投資初心者でも投資がうまく行きやすいのは、なんといっても「長期・積立・分散」投資です。本コラムでも、これまで「長期・積立・分散」投資のメリットをお伝えしてきました。
分散投資のメリット①
分散投資のメリット②
分散投資の方法①相関関係を知ろう
分散投資の方法②資産配分(アセットアロケーション)
分散投資の方法③積立投資で時間分散
分散投資の方法④積立投資のデメリットは?
分散投資の方法⑤リバランスしてみよう
分散投資の方法⑥リスクとリターンの関係
分散投資の方法⑦投資効率を考える~シャープレシオとは~
分散投資の方法⑧(最終回)最適なポートフォリオを見つけよう~効率的フロンティアとは~
投資対象(株式や債券)や地域(米国、欧州、アジア、日本等)、買付のタイミング、とにかく全てを分散し、それを長期間続けることでリスクを抑え、投資のストレスも抑えることで、初心者でも投資を続けやすく、その結果リターンが出しやすい投資手法です。
また、まとまった資金がなくても始められますし、開始当初は投資額も小さいので、少しずつ投資に慣れていくという意味でも初心者にぴったりの投資手法と言えます。
具体的運用方法としては、幅広く分散されたバランス型ファンドの積み立て投資などがこれに当たるでしょう。
「長期・積立・分散」の注意点
しかし、「長期・積立・分散」を実行すれば誰でも必ず成功する、というわけではありません。なぜなら途中でやめてしまう人がいるからです。特に、勘違いしていると失敗しやすいポイントを確認してみたいと思います。
「最も儲かる」投資法ではない
まず注意したいのは、「長期・積立・分散」は、初心者でも成功しやすい投資手法なのであって、「一番儲かる投資法」ではないということです。「長期・積立・分散」では、「予想することによる失敗」を避けて、タイミングや投資先を幅広く分散することにより経済全体の上昇の恩恵を享受し、分散効果により下落リスクを抑えていきます。ですから、投資する「タイミング」や大きく上昇しそうな「投資先」を「予想」して集中投資し、それが当たった場合よりは当然リターンは小さくなります。「大外れ」を回避するために「大当たり」の可能性も排除しているわけです。そこを理解していないと、たとえば全世界の株式と債券に分散投資をコツコツ続けている人が、米国株に投資している人の方が儲かっているようだ、と米国株への集中投資をしてしまったりします。
「長期・積立・分散」のどれかが欠ければ中級レベル
「長期・積立・分散」のどれか一つでも欠けるともはや初心者レベルの投資法ではなくなります。
全世界の株式と債券への積立投資から、米国株のインデックスファンドへの積立投資に切り替えたとしましょう。もちろん、長期で運用する前提であれば歴史的に見ても十分リターンを見込める投資法です。しかし、「株式」という単一資産および「米国」という単一地域に集中投資しているわけですから、長期・積立ではありますが、リスクは確実に高くなります。以前のコラムでもご紹介しましたが、米国株は長期で見れば右肩上がりですが、過去に大きなショックに見舞われて大暴落したり、下落局面が長く続いたりしたことは何度もあります。
(参考)「いつか来る下落相場を乗り越える方法~コロナショックと過去のショックを比較!」
初心者が陥りがちな失敗として、相場が良い時にリターンばかりを見て投資先を決めてしまうということがあります。大きく上がるものは大きく下がる可能性がありますので、相場が良い時ほどリスクにも注意を払うことが大切です。
たとえば、MSCI 北米 (North America) 配当込み(米ドルベース)のインデックスを過去20年間という長期で見ると、10月末までの年率平均リターンは+9.8%、リスクは15%です。
ところが、10月末までの過去1年間に限ってみると、リターンは+43.6%、それに対してリスクは13.9%でした。過去の平均と比べて、リスクが低く、リターンが異常に高いのです。 これが常態ではないということは肝に銘じておく必要があります。そして、投資を行う場合でも、今のパフォーマンスを得られると期待しないことです。それを理解していないのであれば、「長期・積立・分散」投資から逸脱すべきではありません。
相場によっては「長期・積立・分散」も初中級レベルに…
また、相場の動向次第では「長期・積立・分散」も初心者には辛い投資法となることがあります。現在のように長く上昇相場が続いている間は「長期・積立・分散」も簡単に続けられるのですが、問題は相場が下落局面にある場合です。
どんなに分散していても、価格変動はあります。配分次第でかなり抑えることができますが、〇〇ショックと言われるような大きな相場変動の際は、分散投資といえども大きく価格が下落することがあります。一時的に(反対の動きをすると言われる)株式と債券が同時に下落したりするからです。
(参考)「コロナショックで崩れた逆相関、分散投資は無意味?!」
こうした場合、全く知識もなく「なんとなく」投資を始めたような投資家は不安になったり疑心暗鬼に陥ったりします。誰かに勧められて始めた場合には「騙されているのではないか」とすら考えてしまうかもしれません。昨年のコロナショックのような、下落は大きいものの短期的な下げよりも、だらだらと何年も続く下落局面では、毎月毎月積み立てても評価がマイナスのままという状況が続くので、脱落者も増えてきます。ましてや投資額を増やそう、という気持ちになどならないものです。しかし、ここで投資をやめずにいられれば、投資経験やリスク許容度が上がり、初心者レベルを脱することができるかもしれません。
中級レベルの運用が求められるケース
初心者だから簡単な運用がしたい…にも関わらずそれが不可能なこともあります。例えば次のようなケースです。
①すでにまとまった資金を持っている
②年齢等の条件により運用期間があまりとれない
③相場が下落局面にある
④①~③の条件のうち、2つまたは3つが重なっている
③のみのケースについては、いつか上昇することを信じて投資をスタートすればよいわけですが(実際、下落相場で投資を始めるのはなかなか難しいのですが…)、問題は①、②のケースです。資産配分でリスクを調整するのか、デリバティブやオルタナティブ資産を活用したヘッジファンドに投資するのか、あるいは相場を見て短期投資をするのか??選択肢も増え、よりハイレベルな知識やリスク管理手法が求められます。
実は、この両方に当てはまるのが、「退職金運用」です。投資初心者が難しい運用をしなくてはならないため、退職金運用での失敗が後を絶たないというわけです。対策としては、退職前から投資経験を積んでおく、信頼できる中立的なアドバイザーに相談することをお勧めします。いきなり投資をしようと焦るのではなく、今後の生活費はどれくらい必要なのか、不足分を補うためにどれくらいのリターンが必要なのか等をじっくり考えるのが大切です。間違っても「リターンは多ければ多いほど良い」とは考えないことです。
「初心者向けの投資法」よくある勘違い
初心者向けの資産運用方法の指南などを見ていますと、誤解を招くようなケースが見受けられます。例をいくつか挙げてみます。
投資信託
「投資信託を活用すれば分散投資が簡単にできるので、初心者には投資信託がおすすめ!」といったコピーを見かけることがあります。たしかに、株式の個別銘柄に投資するよりは分散できるのですが、投資信託の種類は多岐に亘っており、「投資信託=分散投資で低リスク」というのは全くの誤解です。投資信託の中には複雑な仕組みを活用したものもあれば、ハイリスクのものもありますので、「投資信託なら全て初心者向け」と勘違いしないようにして下さい。
iDeCoやつみたてNISA
iDeCo(個人型確定拠出年金)やつみたてNISAの案内を目にすることが増え、気になっている方も多いと思います。違いがよく分からないため、どちらも初心者向けの商品と思っている方もいるのではないでしょうか。たしかに、どちらも「長期・積立・分散」を実践する手段であることは確かなのですが、いくつか誤解もあります。まず、iDeCoもつみたてNISAも「商品」ではなく「(非課税)制度」です。これらの制度を使って何に投資をするかは自分で決める必要があります。そして、特に初心者が注意を要するのがiDeCoです。つみたてNISAについては、コストや商品性について金融庁の定めた要件を満たした一定の投資信託のみが投資対象となっており、初心者でも比較的選びやすいラインナップになっています。中には、リスクの高い商品もありますが、長期投資を行うという前提に立てば投資に適した商品が選ばれていると言えます。ところが、iDeCoについては、各金融機関につき「3以上35以下」と商品数が定められているだけで特にコスト等の要件は設けられていません。その結果、金融機関によっては、手数料の高い商品しか選べなかったり、かなりリスクの高い商品が提示されていたりすることがありますので、より注意が必要です。
いずれの制度を活用するにしても、最終的な投資対象を選択するのは自分自身です。「初心者向け=絶対失敗しない、知識がなくても大丈夫」ではありません。
まとめ
投資初心者向け資産運用のよくある勘違いを見てきましたが、いかがでしたか?
人はなぜかリターンばかりを見てしまいます。高いリターンを求めれば、必ずリスクの高いものに投資をすることになります。よほど気を付けていないと、ハイリスク・ハイリターンの投資から始めて痛い目に遭い、投資そのものから遠ざかることになりかねません。投資のレベルは知識や経験を積み上げていくことで上がっていきますので、まずは焦らず初心者レベルの投資から始めてみてはいかがでしょうか?
状況的にそれが難しい場合には、アドバイザーを活用することも検討してみると良いと思います。
本コラムが皆様の資産運用のご参考になれば幸いです。